こんにちは、経営相談室の谷口です。
原材料やエネルギー価格の高騰、記録的な円安など、多くの中小企業や個人事業主の皆様にとって、厳しい経営環境が続いています。コストは日々上がっていく一方で、商品やサービスの価格が据え置きのままだと利益が圧迫され、事業の継続が危ういと感じている方も少なくないはずです。
しっかり準備を整えて値上げを実施しましょう!
世の中全体が物価高の今は、顧客や取引先も値上げに一定の理解を示してくれる土壌があります。しかし、この物価高が落ち着いた後で「実はあの時から苦しくて…」と交渉を切り出しても、納得感を得るのは難しいかもしれません。タイミングを逃さないことも重要です。今回は、会社の未来を守るための「値上げ」のポイントを解説します。
「値上げをしたら、長年のお客さまが離れてしまうのではないか」
「競合はまだ値上げしていないのに、うちだけ上げるわけにはいかない」
「お世話になっている取引先に、価格交渉なんて言い出しにくい」
値上げを検討する際、多くの経営者がこのような不安や葛藤を抱えます。お客様や取引先との関係を大切に思うからこそ、その決断は非常に重いものです。
こうした気持ちは、真摯に事業と向き合っている証拠です。しかし、コストが上昇し続ける中で価格を据え置くということは、自社の利益、ひいては従業員の給料を削っていることと同義です。事業を継続し、顧客により良いサービスを提供し続けるためにも、勇気をもって価格を見直す必要があります。
では、どうすれば顧客や取引先に納得してもらいながら、値上げを進めることができるのでしょうか。感情的に「苦しいから助けてほしい」と訴えるだけでは、うまくいきません。大切なのは、客観的な根拠に基づいた「3つの準備」です。
1.コストを「見える化」する
まずは、どのコストが、いつから、どれくらい上昇しているのかを具体的に算出しましょう。「なんとなく全体的に上がっている」という感覚的なものではなく、「原材料Aが昨年比で○%上昇」、「輸送コストが○円増加」といったように、具体的な数字で把握することが重要です。この客観的なデータが、価格交渉の土台となります。
2.自社の「提供価値」を再確認する
次に、自社の商品やサービスが、顧客にどのような価値を提供しているのかを改めて言葉にしてみましょう。価格だけがあなたの会社の価値ではありません。「丁寧なサポート」、「納期の速さ」、「独自の技術」、「安心感」など、価格以外で選ばれている理由があるはずです。その価値を再認識し、自信を持つことが大切です。
3.丁寧な「伝え方」を準備する
コスト上昇の事実と、自社が提供する価値を整理できたら、それをどう伝えるかを考えます。一方的な通告ではなく、今後も変わらず良い関係を続けたいという誠意を伝えることが重要です。「大変心苦しいのですが…」という前置きと共に、具体的なコスト上昇のデータを示し、それでも品質やサービスを維持・向上させていくための、前向きな価格改定であることを丁寧に説明しましょう。
そうは言っても、自社だけでコスト計算をしたり、交渉の準備をしたりするのは大変な作業です。そんな時に活用したいのが、国が提供している無料のサポートツールです。
▼中小企業基盤整備機構「価格転嫁検討ツール」、「儲かる経営 キヅク君」
https://kakakutenka.smrj.go.jp/
このツールでは、めざすべき取引価格の試算や、利益を確保する事業戦略を検討することができます。公的機関が提供している情報なので、安心して活用できます。
価格転嫁は、決して楽な道ではありません。しかし、それは自社の事業を守り、従業員の雇用を守り、そして将来的に顧客へより良い価値を提供し続けるために不可欠な経営判断です。今回ご紹介した準備やツールが、皆さまの次の一歩を後押しできれば幸いです。もし、具体的な交渉の進め方などでお悩みの場合は、経営相談室にご相談ください。
経営相談室 スタッフコンサルタント 谷口が担当しました。
▼谷口 睦(たにぐち むつみ)へのご相談(面談)
(2025年7月23日公開)
この記事に関連する大阪産業創造館のコンテンツ