第295回 なぜ実印に上下の“しるし”がない?|経営相談室のなかのひと|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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なかのひと
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なぜ実印に上下の“しるし”がない?

  • 事業者が結んでしまった契約は原則破棄できない
  • 重要書類に印鑑を押す前にもう一度考える時間を
  • 契約内容はよく吟味しましょう

事業者が結んでしまった契約は原則破棄できない

みなさん こんにちは。経営相談室の田口です。

個人の実印や会社の法務局への登録印(代表者印)に、上下が分かる“しるし”がないことが多いことにお気づきでしょうか。
また実際に押印しようとするときに、いちいち上下を確認しなければならず面倒だと思われる方が多いのでは。このことは後ほどお話します。

契約書に押印するときは慎重に

契約書に押印するときは慎重に

大阪産業創造館経営相談室(あきない・えーど)では、平日の午後に大阪市内の中小事業者(会社、個人事業問わず)限定で、弁護士による事業に関する法律相談をおこなっていますが、そこでよくある相談のひとつが「結んでしまった契約を破棄できないか」ということがあります。

基本答えは「NO!」です。
事業者が一度契約したものを一方的に破棄することはできません。一般消費者にあるクーリングオフ制度も原則適用されません。

なんと理不尽なことと思われるかもしれませんが。そこには経済活動の基本があるからです。事業者同士の契約を一方的に破棄することで起きる混乱を避けなければなりません。

たとえば、ある商品を購入するという約束(契約)がなされたのにもかかわらず、一方的にその約束を取り消すことができる、などとされたら経済は大混乱に陥ります。会社組織であれ個人事業主であれ、事業を行うということは経済活動のプロであるとみなされ、「契約が破棄できない」なんてことは知らなかった、では通らないのです。一度契約書にサインや印鑑を押してしまったら、それは双方納得の上の約束なのです(相手が納得してくれたら反故にできますが・・)。

形式はどうであれ、双方が合意したことを示すサインや印鑑が押されていることが肝となります。

重要書類に印鑑を押す前にもう一度考える時間を

そこで冒頭の印鑑の“しるし”の話に入りましょう。

諸説様々なようですが“しるし”がなくなったのは今から50~60年前のころのようです。それ以前は上下が分かる“しるし”がついているのが一般的だったようです。なぜそうなったかは不明ですが、その時期に実印に用いる書体が縁起がいいものに変更され、それと同時に上下がわかる“しるし”がないのが主流となっていったとのことです。その結果“しるし”がないことで上下を確認しなければならないという面倒な行為が必要となったのです。

しかしそこに大事なことが隠れています。私が若いころに先輩から聞いたことで、印鑑業界でも言われていることが、「印を押すのは人生の中でも特に大きな決断をするときだから、上下を確認している間に本当に押して良いのか考え直す」ということがあります。なかなか含蓄のある言葉です。一度印鑑を押してしまったら取り戻すことができないと思って押印する覚悟が求められるのです。

契約内容をよく吟味しましょう

どんな些細な契約でも、安易に印鑑を押すのではなく、その内容をよく吟味することが大切です。理解できない、おかしいと思ったら相手から納得いく答えを引き出しましょう。相手が説明できないなら、その契約自体に問題があるに決まっています。

世の中には相手を騙して契約させようとする人たちもいます。また、充分に説明もなく印鑑を押さされてしまうこともあります。先ほど事業者は一度契約してしまうとその契約は破棄できないと書きましたが、こうした不正あるいはそれに近い形で契約させられたものは取り消すことができないわけではなさそうです。

そこで当館の無料法律相談では弁護士から契約破棄の可能性と取り消す方法ついてアドバイスをしています。

昨今の社会情勢から対面、書面原則を避けようとする動きや、クラウド上での電子印鑑利用での契約締結の動きも見られ、ハンコ主義も問われていますが、契約するという行為そのものについて、契約成立のタイミング、内容に細心の注意を払う必要性に変わりはありません。実印の上下を確認すると同時に契約していいのか考える間をとると同じように、ハンコ主義がなくなってもそうした間を大切にしてください。

経営相談室 スタッフコンサルタント 田口 が担当しました。

▼田口 光春(たぐち みつはる)のプロフィールはこちらからご覧いただけます。
→ 田口 光春(たぐち みつはる)のプロフィール

(2020年7月29日公開)

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