経営相談室の田口です。
最近、私のところに後継者難で会社を売却された元社長が訪ねてきて、売却した事業のありように不満があると話をされました。売却後も事業は順調そうだし、社員の退職もほとんどないとのことだったので、特に問題はなさそうでした。あるとしたら元社長の売却したことへのうしろめたさだったかもしれません。そこで、「売却した側が現在の事業に口出すことはできないし、ましてや責任もない。もし不満に思われるとしたら、売却時の判断に誤りがあったのでは」、とお伝えしいさめました。
売り手の売却条件を確実に伝えましょう
一口に事業承継のために会社(事業)を売却するといっても、売却する側にもいろいろな思いがあります。身内や社内に後継者が見当たらないが、歴史ある事業を途絶えさせることを自分の代ではしたくないので、売却代金よりも事業を継続してくれることを第一義とすることもあります。また、また子供たちに高額な税金を背負わせるのは酷だから、社長自ら納税資金を調達しておきたい、そのためにはできるだけ高く売却したい、など、事業承継のM&Aとひとくくりで語れず、事業を売却するのはそれぞれの理由があってのことです。
M&Aの交渉の場は売り手と買い手双方の思いを伝える場です。特に売り手は買い手がどのような意図で当社を買おうとしているのか、熟慮する必要があります。
前述した私を訪ねてこられた元社長の会社にも、いくつか購入希望の話が持ちこまれていました。その中には明らかに会社保有の不動産のみに目をつけて持ち込まれたことがわかるものがあり、事業そのものに興味を示しているとは到底思えませんでした。
会社としては、創業後1世紀になろうかとしている会社の事業と社員の雇用を継続してくれることが売却の絶対条件でした。
この会社の希望を叶えるために、元社長は私と出会ってからさらに3年近くの時間を要しました。
会社側をサポートした専門家のよき導きもあり、慎重に売却先を選択した結果、同業者への売却が決まりました。会社側が出した条件を、売却先が殆ど飲んでくれて円満に契約を締結することができたのです。
この事例が教えてくれることは、会社(事業)を売却するときには売り手側が売却後の希望する姿を明確にし、それを相手に伝えることがポイントということです。単に売却代金を得るだけなら、より高いところと交渉すればいいでしょうが、その際にはその後の事業継続や社員の雇用の保証は必ずしもされず、将来取引先や社員の恨みを買うことも覚悟しなければなりません。
本編冒頭の話は、買い手が売り手より歴史が浅かったため、元社長に買い手より格上であるという潜在的意識があり、不満の言葉となって出たのかもしれません。
経営相談室 コンサルタント 田口が担当しました。
▼田口 光春(たぐち みつはる)へのご相談(面談)
(2024年7月31日公開)
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