先日、NHK大河ドラマ「青天を衝け」を視聴致しました。日本初の郵便制度がスタートするなど、ドラマの主人公 渋沢栄一が現代の日本でも継続している事業を立ち上げるシーンが観ていて面白く、そして勇気をくれました。
厳しい事業活動。でも笑顔で頑張りましょう。
ご存知の方も多いと思いますが、渋沢栄一は、その生涯の中で約500の事業設立に関わり、今でも日本経済を牽引している企業が多数存在します。
しかし、私が一番楽しみにしているストーリーは、日本の海運業をめぐる、渋沢栄一と三菱の創始者 岩崎彌太郎との真剣勝負に関するものです。
明治初期、日本の内外航路はアメリカやイギリスの企業が独占し、岩崎彌太郎が立ち上げた東京・大阪・高知間で海上物資輸送を行う九十九商会をはじめ、日本の海運業者をその支配下に置いていました。
その状況を打破したのが岩崎彌太郎です。「日本の内外航路を日本の海運業者の手に取り戻さねばならない。」との信念の下、岩崎彌太郎は日本と上海を結ぶ航路に定期船を就航させ、大手の海運事業者に熾烈な戦いを挑み、ついには市場を制し、日本の海運事業者に内外の航行自由をもたらしました。
九十九商会は社名を郵便汽船三菱会社(以下:三菱)と社名を改め事業規模を拡大し、日本の海運市場シェアをほぼ独占するに至ります。この時代の岩崎彌太郎の考えは「権限とリスクは社長個人(岩崎彌太郎)が負うべき」というもので、この考え・信念の下、海運市場のシェア拡大、利益の最大化に集中します。しかしその反面、岩崎彌太郎の専横的経営姿勢、特に海運料金の高止まりに対し日本の海運業界の反発もまた大きくなっていきました。
この状況で三菱の独占に「待った」をかけたのが三井を中心に共同運輸会社(以下 共同)を立ち上げた渋沢栄一です。渋沢栄一の眼には三菱の経営姿勢は自社の利益追求のみで、日本社会がよりよくなるための貢献等が含まれていないと映りました。渋沢栄一はその著書「論語と算盤」等で、企業活動の重要点として「利益の最大化」とともに、「国家に対する貢献、社会に対する貢献」等を上げています。
三菱と共同は、その後凄まじい価格競争を繰り広げ共倒れの危機に陥り、その様子を見かねた日本政府の仲介で合併するに至ります。この合併した企業が、今の日本郵船です。
私は、三菱の経営に全く理念がなかったとは思いません。日本の海運事業の自立という問題意識が、もし、岩崎彌太郎になければ、現在の三菱グループも存在しないと思うのです。
「日本の海運事業の自立」は日本の海運業への貢献、つまり「利他の経営」だと思います。この問題意識も「経営理念」と呼べるのではないでしょうか。
また、経営理念は企業経営にとって大切な概念ですが、経営理念を具現化することは、厳しいマーケットで利益を獲得してこそ意味があるのだと思います。「論語」だけではなく、「算盤」が合わないと(利益が出ないと)経営とは言えないのではないでしょうか。
また、私たちが担当する経営相談等では、「経営理念策定」に関しては活発な議論が行われるものの、市場への具体的なアプローチ・その活動が議題になると、途端に活発だった議論が静かになる、という場面が少なからずあります。
「経営理念」策定の議論は、ある意味楽しく、逆に、「事業活動」等では厳しい競争に耐え抜かねばならない等、辛い側面もあるからです。
厳しい市場環境に耐えうるには、企業内のみならず利害関係者等が納得できる「経営理念」は欠かせません。しかし、事業活動に見合う利益の獲得にも、歯を食いしばって取り組む「現場力」も欠かせないと思います。
経営相談室 スタッフコンサルタント 森 が担当しました。
(2021年10月13日公開)
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