今回も日本経済新聞夕刊の「あすへの話題」で2025年1月6日号に掲載された、好本達也 J.フロントリテイリング株式会社前社長の寄稿「創業者の強い信念」からスタートします。
経営とは取引先・社会の声に素直に耳を傾けること
ご存じの通り同社は1611年創業の松坂屋と1717年創業の大丸という百貨店の雄を傘下にする会社です。その2社の創業者の強い信念は社是として受け継がれていますが、いずれも「道義を優先し、社会に貢献する」という意味を持った言葉で表されています。同業とはいえ、違う組織で継続してきた両者の社是がほぼ同じであったことに驚きを覚えました。そして「儲ける」という語彙が前面に出ていないことにも。
そこでほかの会社はどうかと思い、歴史ある会社のホームページで創業者由来の社是や経営理念を探索しました。いずれの会社でも「社会的貢献」という意味合いが強く出ていました。
また日本経済新聞朝刊の2025年1月に掲載された伊藤忠商事株式会社の岡藤正弘会長の「私の履歴書」も興味あるものでした。同社の企業理念は、近江商人が源流の創業者伊藤忠兵衛の「三方よし」という言葉が引き継がれています。
これらの会社の社是・経営理念にはSDGsに通ずるものがあり、現代の思いが既に300年以上前にあったとは驚きです。
少し昔の話で、かなりハイスペックの製品を開発し上市したものの、思ったほど売れなかったベンチャービジネスの経営者の話をご紹介します。「なんでこんないいものが売れないんだ。本当に消費者はわかっていない。」という嘆きを聞きました。「それはきっと消費者のニーズに合っていないか、求めていない製品では」とあえて聞こえないように囁きました。
商売はお客さまのニーズに沿ったもの、課題を解決してほしいと思っていることに対応した製品やサービスを提供することから始まります。お客が求めていることが時代遅れの技術の場合もあり得るのです。
日本は世界で類を見ない企業の長寿国で、創業200年を超える会社は300社以上あるといわれています。そうした長寿の会社でも創業時の事業をそのままを続けているわけではありません。同じように見える事業であっても、時とともに変わる取引先や社会のニーズの変化に応えて、何かしら変えているのです。
こうして顧客の課題解決をお手伝いする製品、サービスを提供することが利益に通じるのです。さらには社会貢献の意味合いが深いものも求められるので、取引先、最終ユーザーだけでなく社会が何を求めているのかを探ることが経営の肝となります。独りよがりではなく顧客・社会の声に素直に耳を傾けることが経営者に求められることなのです。その結果として利益は後から付いてくるのです。
(2025年3月19日公開)
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