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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第45話「非同族化で事業を引き継ぐ」

創業半世紀、大手企業に依存した商売ではありましたが、高い信頼を得て、順調な推移をしていました。
将来性は、現状の事業だけでは大きな成長は期待できないものの、安定した業績は間違いない状況と周りも認めるところでした。

この会社の課題は後継者。
当時の社長は創業者の息子で2代目でしたが、子供がなく、また比較的血縁の近い親族でも経営を引き継ぐに適した人物が見当たりませんでした。
そこで検討したのが、MBO(Management Buyout、経営陣による買収)とEBO(Employee Buy-Out、従業員による買収)でした。

MBOにしろ、EBOにしろ、実行するには課題があります。
その一つが銀行借入の個人保証。
本人は了解しても家族、特に配偶者が了解しないケースが多く見られます。
しかし、この会社は業績順調で、実質無借金経営を行っており、ちょっとした借入ならば、安定した取引先などを評価されて経営者保証なしで実行されていたため、この問題は障害とはなりませんでした。

次に課題となるのが経営権の問題。つまり自社株対策です。
一般的に経営権を確保するためには2/3以上の株式を持つことがベストです。
少なくとも役員の選任、解任の決議を思い通りにできる1/2超は保有する必要があります。
この会社の場合も、創業家が株式の大半を保有していましたので、MBOなどを行うには株式の譲渡をしなければなりません。
そのためには役員や従業員には取得費用の負担を強いることになるのです。
そして、この会社の社長は事業を継続することの重要性に重きを置き、自らの欲を表に出すことがありませんでした。

取った対策は、

  1. 取引先、協力会社に将来の安定株主になってもらうべく、満足してもらえる利回りが確保できる株価での増資を実行しました。時価より安く株式を発行すると既存株主の既得権を侵害することになり、株式の買い取り要請などの問題が発生するリスクがありますが、株主総会の特別決議(総会への出席議決権数の2/3以上の賛成が必要)を経ることでそれを避けることができたのです。
  2. 社長一族の保有する株式については、役員、従業員に譲渡しました。個々人の持株比率が15%を超えなければ、特例的評価法(配当還元方式)で譲渡しても税務上問題になることがありません。もちろん、譲渡する側は安く譲渡すれば損をした気になりますが、そうした欲より事業の継続を優先した決断だったのです。
  3. とはいえ、社長にも将来の生活設計があります。そこで役員退職金という形で一定の財産、生活基盤を確保されました。

こうして創業家は経営から経営権もろとも退き、その後の経営は役員、従業員の中から選抜された社長を中心に運営されています。
経営権は、株式が分散してはいますが、筆頭株主が従業員持株会となり、ここを中心に良き理解を得て、安定した状態を維持し続けています。
もちろん、その前提に安定した経営状態があることは言うまでもありません。

(2017年8月22日更新)

担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)

「役員・社員を後継者候補にすると連帯保証と自社株対策がネックに」
「経営者のメリットよりも事業の継続に重きを置くことが承継を成功に導く」
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