第52話「同族で分散した株主構成の会社でもM&Aはできる?」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第52話「同族で分散した株主構成の会社でもM&Aはできる?」

まもなく創業1世紀を迎えようとする食品卸会社の事業承継の事例です。
地域で確固たる営業基盤を築き、食品メーカーからも厚い信頼を得ていました。

社長は創業家の末裔で4代目、既に70歳台半ばとなり、事業承継が喫緊の課題となっていました。
しかし社長には子どもがなく、しかも同族にも適任者がいないという状況でした。
この会社の創業家一族には、過去からこうした社長の人選には苦労してきた経緯があり、社長自身も他の仕事についていたところを、仕方なく引き受けたと語っておられました。

さらに、株式は同族間で均等に持ち合うということが過去から行われており、株主は50名を超えようとしていました。
社長自身も面識がない同族株主も存在していたのです。
社長自身の持株比率も10%に届いていませんでした。

事業承継に悩んでいた社長が最初に検討したのがM&Aでした。
当初は、業歴や事業基盤などから、容易にできるだろうと思われました。
しかし、進めてみると、株式の分散と、多い株主の存在がネックとなることが分かってきました。
つまり、全株主の同意が得られる確信が持てなかったのです。

確かにM&Aをする場合、株主権の絶対安定である2/3以上の株式を取得できれば、以後の経営は思いのままにできます。
しかし、買い手側としては、たとえ経営権に影響がないとはいえ、他に株主がいるということはリスクにもなりうるため、株式100%を取得することが一般的です。 ここでM&Aの可能性がなくなってしまいました。

困った社長は、最も取引額の多い食品メーカーに協力を求めました。
最初は100%の株式の取得は難しいが、できる限りの株式を譲渡し、経営者・社長を迎え入れるということを申し入れたのです。
しかし、メーカーには、この提案は受け入れてもらえませんでした。
それは、同社が競合他社の商品も扱っていることが、顧客・販売先に受け入れられている鍵であり、会社の魅力であり、それをなくすことは会社の基盤の一部が崩れることになるからです。

ただ、メーカーから逆提案がありました。 それは、社長を派遣し、株式は最低限度の保有に止めるというものでした。
株式については、メーカーが上場会社であり、連結決算対象や持分法適用の会社になることを避ける意味もあり、20%以下にするとされたのです。
これを受け入れた会社は、社長も含め協力してくれる株主から譲渡株式を確保し、メーカーに渡すとともに新しい社長を受け入れ、社長は安心して引退することができたのです。

確かに、新しく派遣された社長にとっては、株式による経営権では不安定に思われます。しかし、これだけ株式が分散し株主が存在すると、特定の課題に対して意見一致させることが難しくなり、ある意味安心して経営することができます。
もちろん黒字経営を続けることが前提ではありますが。
また株主にとっても、税務上の株価評価方法が、原則的から特例的評価方法になり相続がしやすくなるというメリットもあるでしょう。
新社長就任から数年が過ぎましたが、順調な業績を維持されています。

(2018年4月24日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「株主の分散はM&Aを難しくする」
「株主の分散が経営権を安定させる場合も」

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