創業50年を超えた中堅企業の話です。
2代目社長との面識をいただく機会を得ました。
業績も順調で、会社が扱う製品は多くの分野で必要とするもので2000件を超える得意先を持った、広範囲の企業にはなくてはならない存在です。
会社のこれからを聞き進める中、話が弾み社長の後継はどうするのか、と質問した時です。
実は、と話されたことは次のことでした。
社長は数年前に離婚されていましたが、もうすぐ成人を迎えるご子息が一人ありました。
ご子息は母方で生活しており、最近はほとんど顔を合わせていないとのことでした。
社長自身は再婚されていましたが、新しい奥様との間にお子さんはありません。
それでどうお考えなのか、とさらに突っ込んだ質問をしたところ、「息子が継いでくれたらいいけどね」というやや弱々しい答えが返ってきました。
それから数年たったある日、久しぶりにお会いした際に、またしてもこの話題に触れることになりました。
そうすると社長は嬉しそうに言うのです。
「息子が入社してくれた。母親も会社に入社することには賛成してくれた。
社長の器に適しているかどうかわからないが、まずは一安心している。
これからしっかりと帝王学を学ばせて、ゆくゆくは社長になってくれたら嬉しい。」
法律的に離婚すると夫婦は他人となりますが、親子の関係は永久です。
もちろん相続権も永久です。
異母兄弟が多くて、相続でもめるケースは多々あります。
しかし、今回のケースは、承継の対象となる子どもが一人であったことで、もめることなく進めることができました。
現在は、社長は会長になり、経営の実務は信頼のおける役員に譲っておられます。
しかし、この方はあくまでご子息までのリリーフ役に違いがありません。
まだご子息を役員にはしていませんが、これも厳しく経営者として育てるという姿勢の表れでしょう。
日本においては、子が親の事業を継ぐことは、まだまだ自然なことと言えます。
その意味で、この会社のケースは、今までのところ事業承継のサクセスストーリーと評価できます。
このケースは珍しいかというと、決してそうではありません。
実は、同じような事例を見聞きする機会は多くあります。
実子が事業を継いでくれることを望む親は多く、また周りから見ても納得しやすい自然な光景なのでしょう。
そこには前の奥様の心の広さへの感謝もあります。
元配偶者の実父の元で働くこと、後を継ぐことを許してくれたことに。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)