第71話「非同族化にはオーナー家の理解が必要」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第71話「非同族化にはオーナー家の理解が必要」

今から20年ほど前にお会いした社長の話です。
ある地方でコンピュータのシステム設計を主業としている会社でした。
元々は電気工事業を営んでいたところ、数年前に社長が中心となり、現在主力とする事業に転向されたとのことでした。

「社長は創業家の何代目ですか」と尋ねたところ、「創業から半世紀になるが、創業家は別です。創業家の2代目社長が急逝し、ナンバー2であった私がとりあえず社長になった。」とのことでした。
その後に続いたのは、社長が会社、そして自分の将来について不安を抱えているという内容でした。

創業家(オーナー家)からは誰も経営に関与していないが、株式の殆どは前社長が保有していたため、相続されて前社長の家族で保有していくことになる。
そうなると、経営を知らない人たちが経営権を握ることになり、会社の将来と自分の立場が見えなくなっている、ということでした。

一方で、前社長のご遺族も、現社長の功績を常日頃から認められている様子でした。
そのため、素直に会社の現状をお話しし、経営が安定する比率まで株式の譲渡を申し入れたらどうか、というお話をしました。
その際には、社長の株式取得資金については銀行の協力を得られるようにしておくことや、社員持株会など他の受け入れ先を立てることも、対策として伝えました。

それから数年後、再度社長にお話を伺う機会がありました。
オーナー家に現状と社長の考えを話し、理解を得られたという内容でした。
株式は社長個人で50%超を譲り受け、さらに社員持株会を結成しさらに20%近く保有でき、両者で2/3超の持ち株となり、安心して経営できる状況にあることを知りました。
晴れやかなお顔を拝見し、私もうれしくなったことを懐かしく思い出します。

さらにオーナー家を尊重するために、経済的な支援をできる仕組みも作っていました。

  • オーナー家保有の株式を配当優先株式に変え、利益がでたら必ず配当で報いること
  • オーナー家の一人を非常勤の監査役に迎え、役員報酬で報いること

この2つを実行する、社長の思いやりある行動にも感激しました。

役員や従業員が会社を譲り受けることを『MBO(Management Buy-Out)』、従業員が譲り受けることを『EMB(Employee Buy-Out)』と言います。
どちらもオーナー(家)の理解があって初めて成り立つものです。
今回のケースは、オーナー家が状況をよく理解し、新社長を信頼したから出た結論だったと思います。
こうしたケースには買い取り資金の調達も課題となりますので、十分検討する必要があります。

また、今回のケースとは少し違いますが、相続された株式を会社が買い取ることができる『相続人に対する株式の売渡請求制度』を活用する方法もあります。

  • 請求する株式が“譲渡制限株式”であること(定款で定めている必要があります。)
  • 請求には期限があること
  • 売買の金額は応相談

など条件がありますので、活用する場合には弁護士等専門家へ相談されるのが良いでしょう。

(2019年12月24日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「オーナー家から経営権を譲り受けるには、真摯に向き合い、状況を理解していただく必要あり」
「株式の譲受・買取にも様々な方法や対策がある」

円滑な事業承継を行うためにも事前にご相談ください

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