現在では創業1世紀を超える、合成樹脂成型品の製造会社の承継に関する物語です。
会社は元来、木製品製造を生業にして創業しましたが、時代とともに合成樹脂成型業に業態転換して現在に至っています。
木製品から合成樹脂に舵を切るきっかけを作ったのは現社長の祖父で、今に至る発展の礎を形作ったのが父でした。
祖父から父への事業承継は円滑に進み、弟(現社長の叔父)が副社長として補佐する体制で、新しい事業に取り組むには申し分ないものでした。
しかし、突然不幸が訪れました。
40歳を過ぎたばかりの当時の社長(父親)が病魔に倒れたのです。
その時、現社長は大学生。
社長を継ぐことは難しく、副社長が急遽社長に就任しました。
それから間もなく、祖父も黄泉の国に旅立たれました。
それまでに強固な事業基盤を構築していたこともあり、新しい体制でも問題なく事業が進んでいきました。
現社長も学卒後、短期間の他社修行を終えて会社に入り、外部で学ぶ機会も逃さず参加するなど、次期経営者としての経験を着実に積んでいきました。
そして次の事業承継を迎えたのです。
現社長は、代襲相続にて会社の株式を取得しており、筆頭株主でした。
しかし、直系で過半数を占めるには至っていませんでした。
その時の社長であった叔父グループも同じ状況でした。
取引先に株を保有してもらい、従業員持株会を結成していたこともあり、単独で人事権、つまり取締役選任権を行使できるグループは存在しなかったのです。
当時、社長(叔父)の本音を伺う機会がありました。
他社に勤務しているが相応の経験を積んできている実子に継がせたいという思いと、兄の息子に禅譲しなければならないという思いが、複雑に交差していたことを思い出します。
一方、現社長の本音を聞くと、本当に叔父が社長を譲ってくれるか疑心暗鬼である気持ちも伝わってきていました。
では、取引先や従業員持株会(というより個々の従業員)はどう思っていたのでしょうか。
その本音を聞くことはできませんでしたが、現社長を次の経営者として遇してきた経緯を知っているだけに、なんとなく次の社長は決まっているという雰囲気でした。
そうなると、株主総会で決定するという手段では、叔父グループの勝ち目はないことは明らかです。
そうした雰囲気を感じ取った叔父は、潔く甥に社長を譲り、社長を退きました。
そして株式も将来問題とならないように徐々に現社長グループに譲り、株式の面からも現在は安定した経営基盤となっています。
前社長(叔父)にも現社長にも面識がある筆者は、当時どちらかに肩入れすることもできず、成り行きを見守るしかありませんでした。
それから20数年が過ぎましたが、現社長の元、ますます隆盛を極めている姿を拝見すると、安どの気持ちが抑えきれず、現社長の経営に敬意を示すしかできることはありません。
(2019年1月22日更新)
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)