第53話「経営の実権・実績へのしがみつきが時に経営判断を狂わせる」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第53話「経営の実権・実績へのしがみつきが時に経営判断を狂わせる」

いつまでも社長の椅子や経営実権を離すことができず、その結果厳しい現実を突き付けられた事例はこれまで第2話第20話第47話でご紹介してきました。
今回もそれらの事例に勝るとも劣らないお話しです。

グローバル企業から高い信頼を得ている下請け企業で、当時の社長が一代でその地位を築き上げてこられました。
社長の年齢も古希(70歳)を過ぎ、事業承継・社長交代も待ったなしの時を迎えていました。

しかし、後継者として社長の長男が専務に就き、実務を取り仕切っていましたが、承継に取り組む様子は少しもありませんでした。
そうこうしているうちに、社長が大けがをされ入院することになりました。
命に別状はなかったものの、歩くことが不自由になり、会社に出てくることもままならない状態となってしまったのです。

この状況を知った社内外の多くの人は、この機会に社長交代がなされるであろうと思いました。
しかし、社長にはその素振りは変わらずありません。
息子である専務や会社幹部を自宅に呼びつけ、いろいろと指図することで経営を行っていかれたのです。

この間に会社を取り巻く環境は大きく変化していました。
それはグローバル化の更なる進展です。
主要顧客であったグローバル企業は、更なるグローバル化を進めており、国内産業の空洞化と言われる状況を作っていました。
その結果、自社への仕事の発注は目に見えて減少していき、売上が最盛期の半分以下になる非常事態を迎えていました。

残念ながら、社員の削減・リストラや新たな得意先の開拓などの対策が急務となりました。しかし、自宅にいる社長には現実が届いていませんでした。
売上の減少は幹部を含めた社員の怠慢が招いたものと叱責するばかりで、具体的な対策の指示は出ませんでした。
また、過去の経緯から発注企業への依存心は決して揺らがず、新たな顧客開拓もままなりませんでした。

当然ながら、現実は社長が考えているほど甘くはなく、ほどなくして資金繰りにも窮するようになりました。
そして倒産。
本当に厳しい現実が待っていたのです。

持っていた技術力はどこにも劣らないものがあった企業だけに、こうした形で姿を消したのは本当に寂しいものがあります。
あの時に現実を直視し、適切な対策を講じていたら、今でも存続し、業界に大きな影響をもたらしていたと信じます。

社長はもちろんですが、息子の専務、そして幹部をはじめとした社員の皆様が、厳しい現実に遭遇されましたものの、今現在は健やかな生活を送られていることを切に願うばかりです。

(2018年5月22日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「現実に向き合えてこそ正しい経営判断が可能となる」
「歴史は動いており、過去の実績がいつまでも続くことはない」

非常事態を迎える前に準備しましょう!

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