第92話「会社の状況に適した後継者が見つからない時の策とは?」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

中小企業の経営者・起業家の皆様を支援する機関。大阪産業創造館(サンソウカン)

読み物
事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

第92話「会社の状況に適した後継者が見つからない時の策とは?」

今回もM&Aにまつわる話ですが、会社の将来を考えた結果、創業家の総意で得た結論で行われた事業承継でした。

その会社は創業半世紀を迎えようとしていました。
当時の社長は創業家3代目でしたが、創業者、その長男、そして三男という順序を辿っていました。
手掛けていた事業は歴史あるものではあるものの、政府の規制緩和や外国資本の流入などで、変革期あるいは戦国期といった様相を呈していた時期でした。

会社の規模はいわゆる中堅といわれるところから、頭ひとつ抜け出した準大手といったところでした。
それだけに、会社のかじ取りには難しさがあったのです。

そうした折に社長と話をする機会がありました。
当時の社長からは、会社の将来に大きな不安を持っていることが窺い知れました。
それは会社のおかれた状況が、かなり逼迫しているという危機感に襲われていたのです。

確かに、当時の会社はトップランナーではありませんでしたが、2番手集団であったことは間違いのない事実です。
一方で、ここで間違ったかじ取りをすると完全に業界から弾き飛ばされるという危機感がありました。
そのため、取引のある銀行や取引先から有能な人材を引き抜き、社長のサポート集団とされていました。

しかし、社長にはそうした人材がサポート、補佐人としては大変有能であることは認めつつ、今後の会社の方向性を決断していく経営者にはなりえない陣容と判断されていたのです。

その一方で、社長の一族を見渡しても、経営を担う人材が見当たりません。
兄弟は年齢的に対象外で、兄弟のこども達を見渡しても、当時の規模の会社の先陣を駆け抜け抜けていくような者が見当たらないと判断されていました。

そうした悩み深き時が過ぎている最中に、企業買収の話が飛び込んできたのです。
業界全体の再構築が進んでいる中で、会社の持つ企業力を評価した同業者からで、その会社は当社を一回り大きくしたトップランナーの一翼を占めているところでした。

会社が得意とする市場に魅力を感じ、相手の弱点を補うために声をかけてこられたのです。その買収の趣旨、単なる規模拡大をめざしたものでないことは社長を納得させるものであり、すぐさま検討に入られました。

まずは、株主である一族に話をされました。
買収を申し入れた相手の真意、買収目的をできるだけ正確に話されたそうです。
相手の買収意図が皆のもとに正確に伝わったことで、一族のみんなからは今回の決断が支持されることとなったようです。

その後、社外の株主にもその話を伝えられたところ、全員とはいきませんでしたが、多くが賛意を示してくれたようです。
その結果、新株主が全体の3分の2以上を保有できることが分かったことで、具体的に前に進むことになったようです。

また社内に対しては、会社が取り巻く状況と会社自身の実態、今回なぜM&Aに応じることになったことを包み隠さず報告したところ、社員は納得し、退職する人もなく乗り切ることができました。

こうして同族経営を離れ、大手企業の子会社になった会社は、厳しい経営環境を乗り越え、さらに発展していきました。

この辺りまでは私も知るところでしたが、ご縁が切れたことで情報も入ることはありませんでした。
このブログを作成するにあたり、会社のHPをのぞいたところ、ファンドによる株式買収により現在はその大手の傘下を離れ、再度独自の道を模索されつつあるようでした。

変化の激しい業界にいる会社は、その対応にスピードが求められるという実態をまざまざと見せつけられていることを感じられた事例です。

(2021年10月12日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「変化の速い業界を生き残るには有能な経営者が必要」
「企業売却が企業生き残り策の手段でもある」

後継者選びでお困りの方はご相談ください。

バックナンバー