20年以上前の話です。
とある企業の社長と親しく懇談する時間をいただきました。
経営方針、ビジョン、経営計画などこれからの事業の進め方を詳しくお話しいただき、
会社の将来は明るいものであると確信しました。
そして懇談の締めくくりとして「ところで後継者はどうされるのか?」と質問したところ、
「それが・・・」ということで次のような話を聞きました。
社長のお子さんはご子息一人で、
しかも有能な研究者として出身大学の恩師から高く評価され、
将来は教授の椅子が約束されているとのことでした。
そのため、ご子息は会社の経営にも、後を継ぐことにもまったく興味がありませんでした。
そうなると後継者は同族以外からとなります。
まず、候補者を社内からと考えましたが問題が2つ。
その段階で適任と思われる人材が見当たらないこと。
そして、銀行借入の個人保証や個人資産の担保提供を肩代わりさせるには忍び難いこと。
しかし、外部から招聘しようとしても、本当に適任かどうか、
社内にうまく融合してくれるか、もちろん個人保証・担保もネックになる、
などの問題が想定され、悩みが尽きない状態でした。
そこで社長が考えたのは、株式上場をしようかということでした。
上場すれば銀行借入の個人保証や担保提供の必要がなくなることはもちろんですが、
有能な人材を採用しやすくなるので後継候補者の幅が広がります。
これらは当然のことですが、最も社長が期待したのは上場に至る過程でした。
上場会社にふさわしい、証券取引所の厳しい審査を通過するための社内の体制を、
相当の工数をかけて整備する必要があります。
その厳しい過程で後継者が育成されていくことを期待したのです。
それから数年、計画通り証券取引所に上場されました。
また、上場作業を進める中心となった役員が社長の期待するレベルまで資質を伸ばし、
後継者として育ち、円満な承継ができたのです。
なお、現在この会社は取引所の上場企業名簿にはありません。
上場後10数年したころから経済環境の急激な悪化、輸入品に押されて倒産したのです。
事業承継問題はうまく乗り切ったのですが、
その後の経営のかじ取りを間違えてしまったのです。
本当に経営って難しいですね。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)