第23話「見事な事業承継には社長の覚悟と寂しさがつきもの?」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第23話「見事な事業承継には社長の覚悟と寂しさがつきもの?」

昔、大変お世話になり敬愛する社長に街角でばったりお会いしました。
約5年ぶりの再会でした。
会社は機械部品を製造しており、日本より海外で高い評価を受けています。
業績もすこぶる好調で、中小の域を脱した中堅企業です。

しばらくは昔話や近況報告に盛り上がり、そろそろ立ち話も疲れたな、と思うようになったときでした。
社長の口から、
「今月末をもって社長を退任することにした。」
という言葉が出てきました。
以下はその後の会話です。

私「後任は息子さんですか?」
社長「そうなんだ。でも銀行や社内はあっさりしたもので、交代を発表しても『そうですか』で終わり。引き留めの言葉もないんだから。」(やや寂しそうに)
私「それは寂しいと思われるかもしれませんが、社長にとって幸せなことでは。社内、社外とも息子さんを社長の後継者として認めていることですから。」
社長「そうだね。」(と微笑みながら)
私「ところで今後は会長に就任されるんですか?」
社長「いやいや非常勤の監査役で、週1回くらい出社しようかと思っている。」

この会話をしていて、この社長は本当に幸せなんだな、と思いました。
息子さんを自他とも認める後継者に育て、円満に禅譲できたわけですから。
しかも、息子さんに社長業を完全に譲って、自分は引退ができるわけですから。

こうも言われました。
「自分の年齢(間もなく古希を迎えられます)を考えると、日本人男性の平均寿命まであと十数年。やりたいことを考えると残り時間があまりないことに気づいたんだ。それで非常勤という道を選んだんだ。」
「でもよく決断されましたね」と私が言うと、
「実はね。」と続きが。

社長が実父である先代から社長を譲られたのが38歳の時。
その時、父親に「私のすることは黙って見ていてほしい。相談した時もすべて『Yes』と答えてください。」と社長になる条件を出し、先代もその通りの対応をしてくれたそうです。
「苦虫をつぶした顔で『Yes』と言うときもありましたけどね」と笑って話してくださいました。

このような承継を受けた後継者は本当に幸せでしょうね。
すべてを任せられる不安・重圧は確かに相当なものだと思います。
しかし、いつまでも院政を敷いたり二頭経営状態に陥って、後継者の成長を遅らせるばかりか会社の成長を妨げる多くの事例を見てきている者としては、見事な事業承継、素晴らしい引退劇に出会った気がしました。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

後継者を更に大きく育てるためには
思い切った禅譲をする覚悟を。
後継者が社長を受け継ぐ時も自身の覚悟を見せること。

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