第54話「『会社の公器化』で非同族化と身内への配慮を果たす」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第54話「『会社の公器化』で非同族化と身内への配慮を果たす」

「会社は公器である」と一般的によく使われる言葉ではありますが、非上場の中小企業の場合、必ずしも当てはまる言葉ではありません。
反対の表現として、「社長は『かまどの灰まで自分の物』」と思っている」というのもあります。
今回の事例は「会社は公器である」を見事に体現されたものです。
一代で世界的な精密機器メーカーに育て上げた社長の事業承継です。

社業はすこぶる順調で、海外に営業拠点を設けるところまで成長していました。
外から見る限り、経営に課題となるようなところはありませんでした。
しかし、今から思えば社長には深い悩みがあったのです。
それは後継者問題でした。

社長には二人のお子さんがいました。
一人は会社に入っていましたが、“そろそろ後継者教育を”という時期が来ても、しかるべく処遇をされませんでした。
おそらく、経営には不適と判断されていたのでしょう。
役員には義兄弟も入っていましたが、年齢が近すぎて後継者候補にはなりにくい状態でした。

そうした中でも事業承継の時は近づいてきます。
そこで社長がとった方法が「会社の公器化」でした。
一族経営から開かれた会社への変身です。

そのために行った行動は二つ。
会社株式の証券取引所への上場と、将来核となる人材、つまりは後継者の確保です。

株式上場の話を初めて伺った時は、他の多くの会社が行うような成長のための一手段であり、創業者利潤の獲得も目的であろうと思っていました。
しかしそこには深い理由がありました。
それは将来の同族外・社員への事業承継のための環境づくりでした。

株式上場の条件には「銀行借入の経営者保証がないこと」があります。
そのため上場するときには銀行が個人保証の解除をしてくれるのです。
それにより社員承継するときの障害のひとつがなくなります。

次は人材です。
事業は順調であり、かつ地元では評判の会社であったことから、さほど苦労することなく新卒採用ができていました。
その中で将来を託すことができそうな社員を選び、しかるべきポジションにつかせるとともに、外部のセミナーなどにも積極的に参加させるなど、将来を見据えた教育を施していきました。
その中で特に期待した社員には、株式上場のための体制づくり、書類の整備をする職を与えたところ、それがきっかけで大きく成長していきました。

計画通り、株式上場を創業者自らの手で果たすことができました。
そして社長のポストもしばらくしてから、期待した社員に譲ることができたのです。
お子さんには、社内での雇用ではなく上場株式という財産で報い、株式上場後の業績も順調で配当で安定した生活ができているようです。

私が現在の社長に出会ったときは一介の課長にすぎませんでしたが、その人柄には何か感じるものがありました。
決して後出しじゃんけんではなく。

(2018年6月26日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「同族に適した後継者がいなければ、『会社は公器』と考え承継策を練るのも一手」
「経営者保証や株式の不安なく事業承継の相手を社員にするにはそれなりの準備が必要」

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