第56話「承継の行き詰まりをM&Aで解決」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第56話「承継の行き詰まりをM&Aで解決」

創業半世紀になろうとしていた家庭用日用雑貨の製造卸業で、3代目社長が悲劇に襲われながらも事業承継に立ち向かった会社の話です。

2代目は創業者の長男が継承し、事業を大いに盛り上げ、業界有数の規模まで育て上げていました。
しかし、正に働き盛りに、事故で急逝されてしまいました。

その急場をしのいだのは、経営どころか会社にもほとんど関わっていなかった2代目夫人でした。
子育ても一段落していたという環境もあり、リリーフ役として3代目社長に就任されたのです。
素人同然ではありましたが、2代目で会社を業績的にも組織的にも磐石な状態にできていたこともあり、特に悩むような場面に出会うこともなく経営されていました。

2代目と3代目の間にはお子さんが3人、いずれも男の子でした。
長男は母親を助けて将来は会社を担うことを前提に、他社修行の後、会社に入っていました。
次男は芸術家、三男は学者とそれぞれ自ら決めた道をめざしており、二人ともそれぞれの分野で、世間で徐々に認知されつつありました。

ところが、間もなく長男への事業承継という時期に、再度、突然の不幸が襲ったのです。
長男の急逝です。
長男家族の悲しみはもちろん、母親であった社長も深い悲しみに突き落とされました。
子どもを失ったことと、後継者を連れ去られたという二重の意味で。

しかし、社長には悲しみにくれている暇はありませんでした。
会社の将来、100名の社員とその家族を支えるための事業承継をどうするか、という現実を突きつけられたのです。

長男の妻は幼い子ども二人を抱えており、会社を任せることは、現実的ではありませんでした。
次男、三男も心優しい子どもでしたので、自分の夢を捨てて長男の代わりをしてもよい、という思いを母親に伝えていました。

しかし、社長は、会社の将来を考えて会社に関わるのは一人だけとし、他のものは自分の道を探すように、と常日頃話をしていたこともあり、二人の申し出を素直に聞くことはできませんでした。

最終的に出した結論はM&A、会社の売却でした。
銀行やM&A仲介業者に声をかけ、思いを伝えて売却先を探しました。
結果、社長の思いを理解してくれた、同業ではない比較的近い業種の会社を選ばれて、会社を売却されました。

M&Aが行われて2年が経ちました。
買収先の会社から新社長が派遣されましたが、社長は会長として残り、元の体制のままで運営されています。
それは買収先の会社が、近いといえども業界が違うと慣習も異なり、社員に与える影響を考えると、大きな変化を求めることは得策でないと考えられたからです。
こうして同社の事業承継は、M&Aという形で円満に解決されていきました。

このM&Aでの承継の鍵は、売却する側の思いをどれだけ伝えられるかということでした。
売却金額ではなく、これまで続けてきた会社の思いを引き継ぎ、事業そのものと社員をリスペクトして経営してくれる先を相手とすることが、一番重要なことです。
その意味で、このケースは第36話とは逆と言えます。
不幸はあったものの、それを乗り越え、M&Aという手段を使って成功した事業承継の事例と言えるのではないでしょうか。

(2018年8月21日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「行き詰った事業承継の手段としてM&Aの例は増えている」
「M&Aの成功の鍵は売却側の思いを汲んでくれる先を探すこと」

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