第10話とは反対の事例を紹介しましょう。
その会社は創業50年を超え、現在は4代目が社長を務めておられます。
その4代目を後継者に決められた経緯を、
先代で父親の会長からお聞きする機会がありました。
会長には3人の男の子がおり、現社長は長男です。
後継者に長男を指名した理由は「長男」だからという回答でした。
3人の子どもの中で一番経営センスがあったのですか?という質問に対する答えは「否」。
「多分三男が一番センスがいいかな、
三男本人も少しは承継に色気があったように感じるが」とおっしゃっていました。
この長男に決めたときに奥様、つまり母親の意見は聞かれましたか?という問いにも
「否、独断で決めた」とのことでした。
何故?それは母親の情が入りすぎるから。
奥様は経営に関与されていません。
もちろんこれも会長の経営に関するポリシーで、
親族はできるだけ関わらせないようにしているとのことでした。
では次男、三男は?
この二人も社内に入れていませんし、非常勤の役員ですらありません。
会社とは全く縁のないところで、サラリーマンをされているとのことでした。
この話のポイントは、同じような資質を持った後継候補(子ども)がいたならば、
「誰もが納得できる選択をすること」「親の情を捨てて決断する」
「兄弟を安易に社内に入れないことで将来の災いを予防する」ことです。
まず同じような資質をもった候補者ならば、
長男であるということはみんなが納得できる理由となり得ます。
(日本だからかもしれませんが。)
もちろん本人に事業を継ぐという気構えがあることが前提とはなります。
また、親の情は得てして正しい判断を狂わせる場合もあります。
嫁姑問題が後継決断に悪い影響を与えた事例もよく見聞します。
兄弟姉妹、親族を社内に入れるかどうかも難しい問題です。
今回のケースでは、会長ご本人がそうしたトラブルを経験したこともあり、
この決断となったのです。
相続と経営承継はまったく別物です。
このケースでも株式は長男である社長に集中させ、
次男、三男にはその他の財産で報いるよう配慮されていることはもちろんのことです。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)