第42話「やはり創業者は自分の直系に継がせたい?」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

中小企業の経営者・起業家の皆様を支援する機関。大阪産業創造館(サンソウカン)

読み物
事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

第42話「やはり創業者は自分の直系に継がせたい?」

一代で特殊設備メーカーをトップ企業に育て上げた経営者の話です。

社長には女性のお子様が一人。
当時は既に学者の元に嫁がれており、お孫さんも二人いました。

経営の補佐役として実弟を専務にしていました。
その専務には男性のお子様が二人で、他社に勤務し相応の会社経験を積んでおり、後継者候補にもなりうるように思えました。

初めてお会いしたのは、そろそろ本格的に事業承継を考えなければならない時期でした。
いろいろな可能性を持っていたため、先ずは社長の考えを聞くことにしたのです。

「将来的には甥(専務の子ども)に継がせることになるのかな」という話でしたが、本心から納得している様子ではありませんでした。
そこで一つ目の案として、「お嬢様を社長にしたらいかがですか。今時男女の区別もなく、女性社長も多く誕生していますよ」と話しを持ちかけてみました。
しかし、お嬢様は離れた場所で生活されており、とても社長業が務まるような状況にはないとのことでした。

次に、「では、お孫さんの可能性はどうですか」と問うたところ、考えてもみなかったような顔をされました。
確かに、まだ小学生のお孫さんに期待を寄せるのは無謀にも見えますし、本人の意志や能力は全くの未知数です。
しかし、血のつながった子孫は確かな後継者候補であることは間違いありません。
ただし、そこに到達するには、時間と経営者自身の寿命という大きな壁があります。

そこで、「甥御さんがリリーフ役を担うことができるのではないか」との話をしました。
社長の頭の中では、甥に経営を譲ったらご自身の直系血筋には経営権が二度と戻ってはこないのでは、という不安がぬぐいきれなかったのかもしれません。

この不安を和らげるためには『経営権』と『経営』を分けて考える必要があります。
『経営』の実務は甥などの直系血筋ではない人に依頼したとしても、『経営権』を確保しておれば、いずれ『経営』も取り戻すことができます。

経営権は衰えることはありませんが経営力は衰えていきます。
いつまでも経営の実権を握り続けることは、果たして良い結果を生み出すでしょうか?
早めに適任の人に任せ、会社を盛り立てていければ、より自分の財産を確実に増やすことも可能です。

そして時が来たとき、直系の人物が成長し、本人もその気になったときに譲れば、会社にとっても直系一族にとっても幸せなことになるはずです。
そうした体制をとり、周りもサポートしてくれるような仕組みを作っておけば、心配事が少なくできるはずです。

そのやり取りがあって10数年が過ぎ、久しぶりにホームページなどで状況を見てみました。
まだ当時の社長のままでした。
やはり経営を手放すことに不安を感じておられるのか。
あるいは、引退は寂しすぎると感じられておられるのか。
どうか、経営力が落ち、事業そのものの活力が落ちることだけはないことを、切に祈るばかりです。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「後継者は直系が一番と考えるのは社内外でもまだ一般的」
「経営と経営権は別物であると考えれば、新たな事業承継の道も」

承継後の体制も一緒に考えましょう

「後継者選び」に関連する事業承継の連載コンテンツはこちら

バックナンバー