一代でベンチャー企業を育て上げた経営者のお話しです。
60歳を超え、そろそろ引退の時期を考えなければならなくなったのですが、
有力な後継者が見当たりませんでした。
お子さんはお嬢さんばかりで既に別に家庭をもち、
その配偶者ともども事業承継はまったく眼中にないとのことでした。
社内を見渡しても適任者は見当たらず、
またメーカーということで多額の設備投資が必要であり、
それに応じた銀行借入もありましたので、
債務保証を社員に負わせることはできない相談でもありました。
そこで社長が選択したのは会社の売却、つまりM&Aでした。
専門の仲介業者に依頼して売却先の選定にはいりました。
しかし、なかなか思うような相手は見つかりませんでした。
なぜなら、その仲介業者が会社の特徴、技術力を的確に把握できておらず、
ふさわしい相手を見つけることができなかったのです。
それでも何とか相手先を見つけ出し、本格交渉に入りました。
相手によるデューデリデンス(会社をすべての側面から調査し、事業価値を判断すること)が行われた結果、
買収額は期待したものをかなり下回るものでした。
相手の売却額の提示を受けた社長は、しばらく考えたのちGOサインを出し、M&Aは無事終了しました。
期待した売却額は得られませんでしたが、社長の顔つきは晴れ晴れしたものでした。
売却額は期待外れだったものの、銀行借り入れの個人保証と自宅の担保提供が外れ、
いままで重荷になっていたものが肩からおろされた解放感からくることは明らかでした。
もしもの時に重荷を子孫に残すという不安感からの解放を意味し、
穏やかな老後の生活が約束された瞬間だったのです。
ただ、会社の本当の姿、特徴・技術力を社長自らが的確に認識し、相手に伝えることができていたら、
たとえば知的資産経営報告書でも作成していたら、 もう少し高く売却できたであろうことが、返す返す残念なケースでした。
担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)
事業承継に必要な準備へのアドバイス、また行動のためのサポートを行っていきます。経営者・後継者どちらのお立場の方でも、お気軽にご相談下さい。