第28話「子どもが後継者に適しているとは限らない」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第28話「子どもが後継者に適しているとは限らない」

まもなく創業100年になろうかという老舗企業の事業承継の話です。
機械部品製造一筋のこの企業は、今では航空機やロケットになくてはならない部品を供給し、世界規模でトップシェアを確立されています。
NASAでも採用され、宇宙ステーションや火星探査にも活躍しています。

現社長は創業者の孫で3代目にあたります。
還暦を迎える数年前に、承継を考えて大手企業で研究職にあったご子息を社内に入れました。
社内の各部門を経験させた後、還暦を迎えたときに社長交代をされました。

ご子息の年齢は30歳代半ば。
少し早いかなという思いもあったでしょうが、社長自身も父親の急逝で早くして社長職に就いたという経緯もあり決断されました。
そして実務は新社長にできる限り任せ、自身は外部の役職を引き受けるなど対外活動に重点を移そうとされていたのです。

新体制になって1年ほどが過ぎたある日のことです。
ご子息から社長辞任と退社の申し出がありました。
まさに寝耳に水の話です。

もともと技術者気質であるため研究やものづくりについては問題ないが、営業や総務・経理といった業務が苦痛であった。
老舗であることから、社内幹部のすべてが先輩であるため、気おくれがあって指示命令などはとてもできない。
といった状況から今回の決断となったとのことでした。

理由が理由だけに承諾せざるをえなく、1年足らずで元の体制に逆戻りしてしまいました。社外活動を頑張ろうとした社長の目論見はもろくも崩れ去ったのです。

まもなく古希を迎える今も、社長を続けられています。
事業承継を真剣に考えなければならない時期ですが、まだ明確な回答を出されていません。もしかしたら、社外での経験を糧にご子息が社長再登板を承諾してくれることを期待しているかもしれません。

この事例から考えさせられることは、子どもを無条件で後継者にすることが良いのかどうかということです。
実子が事業を継ぐことはまだ多くの親の望むところであり、周りから見ても納得しやすい光景ですが、人には向き不向きがあります。

経営を任せるには、後継者がその役割に本当に向いているかどうか判断することが大切です。
さらに経営トップにするタイミングも重要です。
もう少し時間をかけ経営者として育てていたら、今回の事態は避けられたかもしれません。

子どもが本当にしたいことをさせたいという親心と、事業を継続しなければならない社長の使命、相反することになった時は、本当につらい決断が求められます。
ただ、能力もないのに親子というだけで社長を継ぎ、経営を危うくしている事例を垣間見ることも少なくありません。そうなった時は息子を不幸にするだけでなく、社員とその家族、さらには取引先も不幸に巻き込んでしまうのです。
今回のご子息の決断は、会社・社員・取引先等を不幸にしたかもしれないリスクを回避したのでは、と納得してしまうのは私だけでしょうか。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

同族の後継者にも後を継がないという決断はある
適性のない同族が社長になれば会社と周りを不幸にするリスクも

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