第16話「時代に翻弄された事業承継」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第16話「時代に翻弄された事業承継」

創業100年になろうとしていた老舗メーカーの話です。
バブル崩壊の頃、今から20年以上前に遡ります。

いわゆるセレブ御用達で、皇室にも納めていた製品を製造販売していました。 製品は販売もデパートか有名専門店でしか扱わせないほどのブランド力を持っていました。

当時は3代目社長で、そろそろ事業承継を考えなければならない時期に差し掛かっていました。
しかし、社長には実子がおらず、甥を社内に迎え後継者候補にすることにしました。

ところが、十分な帝王学を施す前に社長が急逝してしまい、既定路線のまま新社長には甥が就任したのですが、年齢的にも若く経営者としての教育が十分ではありませんでした。
若すぎた承継と言えるでしょう。

その当時の会社を取り巻く環境は大きく変化し始めていました。
デパート産業の成熟とスーパーマーケットの台頭、高級品から使い捨てによる大衆品への消費選好の変化が起こっていました。
デパートを販売ルートの主力とする会社の売上も、頭打ちから減収へ向かい始めていたのです。

一方で老舗企業だけに付き合いも幅広く、いろいろな人たちが取り巻きとして新社長の周りに集まってきました。
それで新社長も勘違いしたのでしょうか?
あるいは厳しい本業の立て直しをどのようにしたらよいかわからなかったのでしょうか?
集まってきた同世代の人たちと、本業とは全く関係ない事業を始めたのです。

傍から見ていて、決して収益を生むとは思われず、また本業にプラスの効果が期待できるとも思われない、正にお遊びでした。
周りに煽てられて始めたに違いなかったのでしょう。
それに対して社内の幹部からも、金融機関や取引先などからも忠告しましたが聞き入れられることはありませんでした。
新社長として何か新しいものを打ち出したかったのでしょう。

その結果は押して知るべし。倒産です。
決して新社長のお遊びだけが原因とは言えません。
本業の凋落も有効な対策が打てなかったことも要因です。
素晴らしい製品でしたから大変もったいないことでした。
それを表すように、直ぐに大企業がスポンサーとして名乗りを挙げ、再建を果たしそのブランドは現在も続いています。

このケースは承継のタイミングが全く悪かったと言えます。
まだ十分に訓練を積む前に、先代の急逝によって急遽就任させられ、時代の大きな潮流に呑みこまれた新社長も被害者と言えるかもしれません。

第3回で紹介した社長のように遺言書を有効活用されていたら、このようなことにならなかったかもしれません。
後継者の順序・タイミング、ワンポイントリリーフの必要性、補佐体制などを文字で残されていたら。。。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

急で早すぎる承継は後継者も不幸にすることがある
遺言で将来の体制まで気を配っておくことが事業継続の肝

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