第37話「直系後継者をじっくり育てる」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第37話「直系後継者をじっくり育てる」

一代で海外子会社を複数持ち、売上高100億円の企業に育てた経営者の事業承継の事例です。
特に、経営の承継を見事に舵取りした事例でした。

創業社長は子どもにも恵まれ、長男を後継者含みで入社させていました。
長男が後継者に指名してもいい年齢になった時にNo.2のポストを与え、取引先や銀行等に同行させるなどの帝王学を施していました。
社長が古希を迎えようとする頃には、長男を社長に指名すると誰もが思っていました。

ところが、後継者に指名されたのは長男ではなく、親族でもない役員でした。
年齢的にも、社内の勤務経験からしても、長男が社長に指名されても何らおかしくはない状況でした。
一代で上場企業にも劣らない企業を育てた創業者からみると、長男の経営者としての資質に満足できていなかったのでしょうか。
引き続き社長を補佐することになったのです。

外部から見ると、この人事にいくつかの疑問が湧いたのは事実です。
「長男はそんなに能力がないのか」
「社長が認めることができない理由はなんなのか」
「登用された役員はどれだけ素晴らしい能力の持ち主なのか」など。

功を成した創業社長には、自らの経営に圧倒的な自信を持っているがゆえに、たとえ息子と言えど、否息子だからこそ全幅の信頼を寄せることができず、いつまでも権限を委譲することができない例がよく見受けられます。
今回もそのようなケースなのかと思ったりしました。

この時、創業社長は多くを語りませんでした。
しかし、その後の事業運営を見ていると、なるほどと納得することができたのです。

100億円企業で、しかも国内・海外合わせ数か所の事業所を纏めていくことは並大抵なことではありません。
後継社長に指名された役員は、モノづくり=製造部門と営業に長けており、日常の事業運営を行うには、最も相応しい人事でした。
一方、長男は間接部門、特に経理・総務畑の業務を得意としており、引き続いてその部門の責任者であり続けました。
合議体での経営組織体制を採ったのです。

既にワンマン経営ができる企業規模を突破しており、その状況で創業社長の息子というだけでは全権をふるうことは不可能でした。
そうした重荷を背負わせるのは気の毒だ、と思われたゆえでの人事であったとも推測される、本当に奥深い承継でした。

その体制が10年ほど続き、創業社長がご存命の内に長男が社長に就任されました。
創業社長の目に叶ったのでしょう。
新社長に就任した後の経営体は、引き続き協議体での運営がなされていきました。
創業社長の意を長男である新社長が汲み取ってのことだったと思われます。

現在は、長男が会長になり、社員から登用された役員が新社長に就任され、会長と社長がバランスを取った経営となっています。
海外拠点も増え、業績も益々好調を持続されています。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

直系だからといって安易な経営委譲は禁物
企業規模に相応しい経営者に育つまでじっくり待つことも必要

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