第17話「後継予定者に襲った悲劇」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第17話「後継予定者に襲った悲劇」

成熟産業となっていた業界に身を置く、あるメーカーの話です。

社長には息子2人と娘1人がおり、長男は商社、次男は電機メーカーに勤め、娘は嫁いでいましたが、後継者選びにはさほど苦労しないと思われていました。

社長が60歳半ばを迎えたある日、3人の子どもを集め会社の将来、後継についての相談を持ちかけました。
そこでの3人の答えは業績不振もあり極めて否定的で、押し付け合いの末、一番年が若い次男がしぶしぶ後継者として、次期社長を受け入れることとなりました。

次男を社内に迎え、5年後の社長交代をめざし、社長による帝王学が始まりました。
次男は、社内の各部署をめぐって仕事の内容を知ることから始め、合間を縫って社長の取引先・金融機関など外部との付き合いにも同行し、後継者教育を着実にこなしていきました。
また、業界団体や若手経営者の集まりに積極的に顔を出すとともに、外部のセミナーにも出席してスキルアップにも勤しんでいたのです。

会社の仕事にも慣れてきた次男は新たな取り組みにも挑戦するようになっていきました。
それまで会社では、あまり積極的に新規営業を行っていませんでした。
そこでまず自社の強みの明確化に取り組み、ホームページを開設して強みを周知させる広報体制を構築し、新規取引開拓の全社的な仕組みを作り上げました。
また、社外活動を積極的に行うことで、他社との協業の可能性も生まれてきたのです。

こうした取り組みは徐々に実を結び始め、新たな事業の可能性が広がるとともに、社内の空気も一転して活気あふれるものになりました。
そうした状況に社長はとても満足し、次男を後継者に選んだことは間違いないと確信し、予定通りに社長交代を行うことにしていました。

ところが交代予定時期が間近に迫ったある日、社長が急逝してしまったのです。
突然の出来事で社内は戸惑いに包まれましたが、社長職は予定通り次男が継承し、社内・取引先をはじめとした関係先もさしたる問題もなく受け止めてくれました。
しかし、まだとても重要な問題が残されていたのです。
そうです、相続、特に株式の問題が残されていました。

父親から承継の相談を受けた時に頑なに拒否し、弟に後継を押し付けた長男・長女でしたが、次男の努力で上向き始めた会社に魅力を感じ始めたのです。
2人は、株式の相続も平等を主張してきました。

兄弟の母親は父親より早く亡くなっていたため、相続人は子ども3人に限定となり、ここでも力関係で株式も平等に3分割されてしまいました。

さらに問題は続き、長男の社長就任工作が始まりました。
長女を味方につけて株主総会の開催を要求し、次男の取締役解任と、長男の取締役・社長就任を決議して、次男を追放してしまいました。

こうしたゴタゴタを経た社内の空気は最悪となりました。
結局、長男は社員の信頼を得ることができず、業績も再び低迷することとなってしまったのです。

後継者が決まった段階で、経営権の裏付けである株式について、譲渡なり贈与なりで次男のものにしておいてくれたら、少なくとも遺言があれば、こんな結果を招くことにはならなかったかもしれません。
次男だけでなく社員にも苦しい思いをさせなかったはずで、とても残念です。
社長の本音はもう少し生きて、後継者をサポートするつもりであったでしょうが。。。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

弟の頑張りが兄の色気を呼び、横取りを企図!
兄弟のいざこざの芽を摘めるのは社長だけ

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