四半世紀以上前に講演で聞いた話です。
講師は50代半ばの創業オーナー経営者。
テーマは「私の事業承継対策」でした。
この社長の言葉でまず驚かされたのは、
「毎年正月に遺言状を書き直している」ということでした。
50代にしてですよ。
そして、その内容にも驚きました。
財産の相続についてだけでなく、
「今年私が死んだときの経営体制、社長は誰にするか?それが5年後なら、10年後なら、20年後なら・・・」
ということを書いているとのことでした。
なぜなら、今の状況と5年後、10年後の状況は違うと認識していたからです。
後継者は息子さんを予定されていましたが、その当時はまだ学生。
事業の顧客には大手企業も多く、未経験者を後継者にする訳にはいかなかったのです。
そこで「今年なら専務の誰々に、5年後は常務の誰々、10年後は部長の、20年後には息子を」と、その時ごとに年齢的にも経験的にも任せられる人を考え、指名されているとのことでした。
これを毎年書き直すのは、状況は刻々と変化するからなのです。
悪い状況としては、予定していた役員や社員が亡くなったり、退職したりすること、
よいと思っていた人よりもっと有能な人が見つかった、なんてことが起こりうるからです。
ですから毎年書き直す必要があるとのことでした。
その遺言は、幸いかな利用されることはありませんでした。
自分の口で息子さんに社長交代を告げることができ、会長の務めも果たし円満な経営者人生を終えられました。
会社も隆々と継続しているのはもちろんのことです。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)