多くの経営者が趣味として愛好するスポーツ、ゴルフの大スター宮里藍選手が2017年5月末に突然に引退を表明しました。
アマチュアの高校生がプロトーナメントで初めて優勝するという快挙を遂げた宮里選手。
その後の日本、アメリカでの活躍は多くの人が知るところです。
ゴルフのプレーをやめて(引退ではなく挫折?)ほぼ10年になる筆者も、宮里選手の活躍を新聞等で追いかけていました。
しかし、最近は記事になる機会が少なく、トーナメントでも上位になることがめっきり減って、怪我などでどこか体の調子が悪いのかなと思っていました。
その宮里選手の引退理由が「モチベーションの維持が難しくなった…」ということ。
年間40試合近く開催される過酷なプロトーナメントで戦い抜いていくには、我々には想像できない肉体的、精神的プレッシャーがあることでしょう。
そうした中で15年間戦い続けた宮里選手からでた「モチベーション…」の言葉の持つ重みは大変なものであり、引退発表に納得してしまうのは私だけではないと思います。
本当にお疲れ様でした。
本シリーズをお読みの経営者の皆さんにとっても、「モチベーションの維持」は大変なことでしょう。
厳しい企業間競争にさらされながら、社員とその家族そして取引先を守るという使命を帯びた役割を担う企業経営者。
スポーツ選手以上に「モチベーションの維持」が求められます。
それも24時間365日、休む間もなくです。
そうした厳しい状況下にある経営者の方の「引退」は、何をもって決めるべきなのでしょうか。
アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長兼CEO(2017年6月現在の肩書)は、日経ビジネス2016年12月26日号の特集「こんな後継者選びは失敗する」において、引退についてこのように述べておられます。
「社長になった翌日から、まず後継者をどうするかを、本気で考える必要がある」。
そして、社長交代のタイミングは、
①自分の潮目、旬みたいなもの(引き継いだときから考えていた)
②意欲、体力の残っているうち(もしもの時に復帰しなければならないから)
であるとも仰っています。
社長交代のタイミングの②については、本シリーズの第5話「どの子どもに継がせるか決めるのは難しい」が事例として思い浮かびます。
社長には復帰されませんでしたが、会長として的確な判断でトラブルを解消されています。
また見事な出処進退を形にされた事例は第13話、第23話、第31話などで紹介しましたし、反対の事例は第2話がそれにあたると思います。
「モチベーションが維持できなくなった…」で引退する宮里藍選手の言動は、経営者の出処進退に通じるものがあります。
社長交代のタイミングを失して「晩節を汚した」という事例も意外と多いものです。
そうならないように、自らの功績を自ら汚すことがないよう、事業承継・社長交代のタイミングを頭の隅に置いていてほしいものです。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)