第20話「相続税で苦しむのは後継者です」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第20話「相続税で苦しむのは後継者です」

一代で超優良企業を育て上げた社長の話です。
社長の人生は会社そのもの、趣味は仕事、寝ても覚めても考えるのは会社のことばかり。
公私のけじめはきっちりとつけている、というよりも私の部分がほとんどなかった人生です。
お金に関しても例外でなく、すべては会社のため、社長がもらう役員報酬も生活ができればよい、という考えの持ち主です。
その結果、当然のように会社は財務内容ピカピカの超優良企業となりました。

後継者は長男で、大学を卒業後、大手企業勤務を数年経験して入社。
社長の生き様を子どものころより見てきた長男も、社長と同じ考えで業務に励み、後継者として申し分ない人物となり、本格的に事業承継対策を考えてよい時期となりました。

後継者は決まっていたため、特に自社株・相続対策が必要でした。
社長の人生の通信簿ともいえる会社の株価は、国税庁が定める評価方法に従うと途轍もない価格で、喜んでいいのか悲しんでいいのか。さらに自社株の大部分は創業時のまま社長がほとんどを保有していますので、想定される相続税は推して知るべし。
その一方、社長のそれまでの方針から、自宅以外に税に見合う目ぼしい金融資産がありません。
期待できるのは退職慰労金と死亡保険金などだけです。

しかし社長は相続に関しては全く無頓着。
いつまでたっても後継者に自社株を譲ろうとはしないどころか、生涯現役を貫こうという姿勢でいます。
社長を取り巻く幹部役員、金融機関、税理士などはヤキモキしていました。
ご家族も表向き平静を装っておられましたが、果たして本心はどうだったのでしょうか。
この話題はたとえ身内でも、いや身内だからこそ切り出しにくいものです。
まして取引に影響が及ぶかもしれない金融機関などにもできません。

そんな折、後継者の本音を知った私どもは社長の考えを聞くことにしたのです。
特段利害関係がありませんでしたので、その任に最もふさわしいと思えたからです。

その答えは、
「相続税、そんなものは相続を受けたものが考えればよい。
なんで私が考え対策をしなければいけないの。
死んだあとのことなど知ったことでない。」
といったものでした。
これで会社の相続税対策は行き詰ってしましました。
ちなみに、傘寿を過ぎた今も社長は現役バリバリのため、まだ結果は出ていません。

国ではこうしたケースを想定した事業承継税制、相続税・贈与税の納税猶予、免除制度を設けていますので、それを活用することも一策でしょう。
ただ、将来にわたって少なからず制約を受ける条件が付されていますので、活用するには十分な検討が必要です。
また、ほかに適当な資産がない、譲渡制限が設定されていないなど一定の条件を満たす場合は、未上場株式であっても物納は可能です。
しかし、これも受け入れた国税庁が入札で売却してしまいますので、得策とは言えません。

後継者の悩みに同情してしまうのは私だけでしょうか。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

潔癖な社長の会社ほど自社株評価は高くなりやすい
次世代のことを考えておくのも社長の役目

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