第67話「実子よりその嫁を選択した訳は?」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第67話「実子よりその嫁を選択した訳は?」

昨今は娘が後継者になる事例も多くみられるようになりました。
これまで、第32話第46話でもその一例を取り上げました。
今回は息子の配偶者、つまりは嫁が後継者になった話です。
今ではまもなく70周年を迎えようとしている会社の、30年ほど前に起きた創業社長の後継者指名にまつわる顛末です。

会社は建設資材の卸業者として創業されました。
その後、無類のアイデアマンであった社長が考案した製品を自社開発し、特許を取得。
自社生産体制を整え市場に出したところ、大変な好評を得て、卸業からメーカーへと業態転換されていました。
独自製品を事業の柱にすることで、業績はすこぶる好調でした。

社長には男女一人ずつの子どもがいました。
長女は結婚して新たな家族を作り、会社と関係ない生活を。
長男は結婚し、夫婦で会社に入っていました。

長男は社長を補佐する役員に、その妻は社長の奥様の後を継いで経理全般を見る役割を与えられていました。
これで後継問題もクリアし、将来安泰と思われていました。

しかしながら、長男の行動に変化が見え始めました。
長男には学生時代に夢中になった趣味がありました。
そのため、実は、父親が経営する会社への入社も、親同士が決めた結婚にも気乗りしてはいなかったのです。
それでも初めのうちは、父親に追いつこうと努力していました。
しかし、努力すればするほど、父親の姿が大きく手が届かない存在に見えたようです。
偉大な父を持つ子どもの悩みです。

その結果、会社勤めに身が入らず、昔の趣味にのめり込むようになり、会社にも余り顔を出さなくなってきたのです。
長男の妻は、夫のそうした行動を補うかのように社業に力を入れ始めました。

このような状況も、社長が健康で経営の第一線に立っている間は、特に問題はありませんでした。
しかし、古希を迎えるころになると、後継者問題が現実味を帯びてきます。
社長はいろいろなケースを考えるも、なかなか結論が出せません。
長男と話しても、経営者にならないことを確認できただけでした。

困り果てた社長は、妻と長女に相談しました。
2人からは「長男の嫁に社長を譲ったら」という、社長には考えつかなかった提案が出てきました。
確かに、それまでも経理・総務など間接部門の業務全般を担当し、出しゃばらず、絶妙に社長をサポートしてくれていたのです。
妻と長女からはさらに、「長男夫婦には子どもがいるから、孫の代で本家帰りができるのでは」という意見もありました。

思いもつかない形での承継となりますが、嫁の技量等を冷静に判断すると、その時の会社にとってベストな選択だと認識されました。
そこで家族会議を開き、正式に長男の嫁を後継者に指名するとともに、長男には以後一切経営に関わらないことを宣言させ書面に認めました。

それから30年ほどが経ちました。
長男の嫁は期待以上の経営力を発揮し、創業者が経営していたときの数倍の規模まで会社を成長させました。
そして、もう一つの提案であった本家帰り、つまりは創業者の孫への経営承継も滞りなく行われました。
2代目社長の役目を終えられ、息子の経営をやさしく見守る母親の姿がそこにありました。

子どもの配偶者も家族であり、後継者候補の一人であることに気がついたのがこの事例です。そこまで広く人材を求めれば家族内承継の選択肢が広がることを教えてくれました。

(2019年8月27日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「息子の嫁も家族の一員であると気がつけば広がる選択肢」
「後継者選びに大切なのは、後継者の会社を経営する覚悟」

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