創業60年を超える精密機械部品メーカーが行った事業承継について紹介します。私がその会社と接点を持った時の社長は、創業者の三男でした。
創業者には三人の男の子があり、全員がその会社に入り、それぞれに持ち場(製造、営業、総務・経理)を分担していました。
創業者が逝去された後は、問題なく長男が2代目社長に選ばれました。
その後、長男が体調を崩され社長を降りることになりましたが、次男は自らその任に非ずということで辞退され、結果として三男が3代目の社長となられたのです。
長男は会長として、次男は専務として社長を支えられていました。
株式は均等に保有し、よくある兄弟間の諍いなどとは無縁の、素晴らしい経営陣でした。
しかしながら、三男の次となる「4代目社長に誰が就くのか」が課題として浮かび上がってくるのは必定です。
この兄弟の係累に後継者候補がいれば問題なかったのですが、適任者がいなかったのです。
子どもたちはそれぞれの道を歩んでおり、会社に関与しようとの意志は全くありませんでした。
こうしたケースでの対応に想定されるのは、「株式上場」「M&Aにより会社経営を他社に委ねる」「社員による事業承継」「外部からのプロ経営者の招聘」などです。
最終的に兄弟が出した結論は、『経営権を保有しながら、社員の中から社長を選抜して経営を行う』ことでした。
そのために必要なのは、兄弟一族が将来に亘って経営権を保有し続けていける仕組みを作ることです。
採用された仕組みは「持株会社の設立」でした。
持株会社を作り、そこに兄弟それぞれの持株をうつしました。
そうして経営権の問題を解決されました。
社員の中から最初の社長を決めるにあたっては、候補者を選抜し、兄弟の意見交換を幾度も繰り返して行われました。
それ以降は、経営陣と創業家の合議で決定する仕組みが構築され、上手く会社を継続されています。
この仕組みには、将来、創業家への“大政奉還”の可能性が残されています。
実子に候補者がいなくても、孫やさらにその後に適任が現れる可能性はゼロではありません。
この会社に相通ずる例として、トヨタ自動車の事業承継があります。
現在は豊田家直系が社長に就任されていますが、その前何代かは同族外の方が社長をされていました。
現社長の就任時には、多くのメディアで“大政奉還”という言葉が飛び交ったことが思い出されます。
今回の事例企業も、将来そうなることが期待されているのかもしれません。
(2018年9月25日更新)
担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)
事業承継に必要な準備へのアドバイス、また行動のためのサポートを行っていきます。経営者・後継者どちらのお立場の方でも、お気軽にご相談下さい。