創業社長にお会いしたのはほぼ半世紀前でした。
インテリア家具の製造会社を創業し、業界で注目される会社に育て上げておられました。温厚な性格は社内の空気、社員の態度にも表れ、実直な仕事ぶりは社内外の誰からも好感を持たれていました。
創業地は住宅地で既に手狭になっていたこともあり、間もなく近郊の工業団地に移転されました。
第78話とほぼ同じ状況にあり、バブル経済の真っただ中で資金調達にはほとんど苦労することなく工場移転がなされました。
業況も扱う製品がバブル経済に呼応するかのものであったこともあり、順調に右肩上がりをたどっていました。
そうした明るい状況の中で創業社長は寿命を全うされました。
創業者のこどもは娘一人。
また第78話と同じように銀行借入に伴う経営者保証もあり、社員が後継者となることは難しい状況でした。
そこで、他社に勤務していた娘の夫が、結婚後に将来のことも意識して創業者の養子となり社長に就任することとなったのです。
この2代目社長は先代創業者に劣らずの真面目で、実直・温厚な性格の人物でした。
しかしこの好人格が、押し寄せた時代の波を乗り越えることができない要因となってしまったのです。
バブル経済の崩壊とともに、当社製品の需要は日増しに落ち込んでいったのです。
さらに流通革命も大きな打撃でした。
それまでは地場問屋を経由した、地場小売店での販売がメインのルートでした。
しかしそのルートに変調が起き、大型小売店が直接メーカーから仕入れて販売し、消費者も地元小売店ではなくそうした大型量販店で商品を求めるようになったのです。
こうして当社を取り巻く環境は厳しさを増していったのです。
今までの取引先の業況も厳しくなり、当然のこととして当社の売り上げも減少していきました。
この状況を知った私を始め、金融機関などは新たな販路の開拓や会社の得意技術を生かしての製品の転換を勧めたのです。
しかし2代目社長の答えは、「先代から大変お世話になっている得意先で、それを無下に断ることはできないし、そこに求められる製品を供給することが当社の使命である」というものでした。
そうしているうちに、有力得意先が倒産したのです。
当社に大きな負債を負わせて。
正に2代目社長の優しさが裏目に出た事態です。
その巻き添えを受けて、当社も自己破産の道を選択せざるを得なくなったのです。
憔悴しきった2代目社長の姿は直視に堪えませんでした。
創業社長はこの様子をあちらの国からどのように見ていたのでしょう。
その気持ちを思うと、胸が締め付けられる思いがします。
でも創業者等の性格からすると、ひょっとして2代目によくやったと声をかけているかもしれませんね。
確かに先代の思いを引き継ぐことは後継社長に与えられた使命ではあります。
しかし、老舗と言われるところは、各代で何らかの目には見えないかもしれない事業転換を行っているものです。
それがあるから何代も継続できるのです。
この会社の2代目もそうした姿勢があったら、と思うのは私だけではないでしょう。
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(2021年12月21日更新)
担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)
事業承継に必要な準備へのアドバイス、また行動のためのサポートを行っていきます。経営者・後継者どちらのお立場の方でも、お気軽にご相談下さい。