第63話「中継ぎ社長は所詮中継ぎ」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第63話「中継ぎ社長は所詮中継ぎ」

創業80年を迎える電気機器向け金属部品メーカーの話です。
約20年ほど前に創業社長が逝去されました。
創業社長には子どもが3人、皆さん女性でした。
それぞれが良き縁を得て家庭を築き、配偶者ともども会社とは無関係の生活をしていました。
そのため、その時に唯一社内にいた創業社長の甥が社長に就任し、経営を担っていくことになりました。
しかし、ほとんどの株式は創業社長が保有しており、法定の割合に従って妻と子ども3人が相続したため、新社長の株主としての経営権はないに等しい状態でした。

経営権としては不安定な状況の中、新社長は創業社長のやり方を踏襲して経営されていました。
特に問題が起きることもなく、業容の拡大を進めるなど、経営者として十分評価されるものでした。
また、創業家のことを思い、社長就任後の経営陣として、創業者と長女のそれぞれ配偶者を取締役として迎え入れていました。
両者とも経営には全く関与しませんでしたので、社長の思い通りの経営ができていました。
そして次期社長含みで息子を入社させ、ゆくゆくは息子に継がせたいと思うようになられたのです。

そうして迎えた古希を過ぎたある日、創業家から社長交代の申し入れがあったのです。
規模が拡大し、会社の価値や魅力が増してきた中で、社長の息子が後継者になってしまっては創業家が経営から疎外される、と危惧しての行動だったのでしょう。

その時点では、息子も社長に推薦できるほどには成長していませんでした。
そのため、社長には、息子を後継者指名するなど行動での抵抗ができませんでした。
創業家での話し合いの結果、長女の配偶者が社長候補に名乗りを上げ、株主総会で社長の交代が決議されたのです。
株式の絶対多数を保有する創業家に対し、社長には抵抗する術が全くありませんでした。

当然、社長は退任、息子も退社することになりました。
それまで創業者の思いをつないで会社運営に力を注ぎ、成長を遂げた社長の胸の内を思うと、複雑な感情を覚えるのは私だけではないと思います。
大きな失敗をしたのであれば致し方ないでしょうが。

新社長を迎えた社員には衝撃が走りました。
いままで全く会社に関わることなく、業界のことも知らない人が落下傘で社長になったのですから、当然のことです。
しばらくは社内がギクシャクし、業績の後退も見られました。
しかし、もともと実力のある会社に育っていたため、時が経つにつれて落ち着きを取り戻していきました。

経営権、株式の裏付けのない経営者の経営基盤は脆弱です。
その事例は、第38話第39話第41話でも見てきました。
本当に厳しいものですね。

(2019年4月23日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「中継ぎ社長が自身の直系に承継するのは困難」
「承継の最後の決め手は株式による経営権」

事業承継に不安があればお気軽にご相談ください。

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