第81話「先代社長が重宝した幹部は後継者世代でも力になるとは限らず」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第81話「先代社長が重宝した幹部は後継者世代でも力になるとは限らず」

その会社を知ったのは20数年前です。
既に社長は交代されており、30歳代後半の方が社長でした。
もちろん面識を持ったのもその社長です。

先代は社長の叔父で創業者でした。
子どもがいなかったので、大手企業に勤務していた甥が後継者に指名されていました。
先代は喜寿である77歳を過ぎていましたが、まだ元気ということで会長となり、週に数日出社するものの、ほとんど実務にはタッチされていませんでした。

私が会社を訪問して社長に会う時は、いつも番頭である補佐役の役員が必ず同席していました。
私が会社の内容や業績、あるいは今後の方針などを社長に尋ねると、常に横から番頭さんが回答してしまわれるため、どちらが社長かわからない状態でした。
その時、社長が寂し気な笑いを浮かべておられたのが印象的でした。

ある時、番頭について本人の不在時に社長へ尋ねました。
番頭は先代である会長にかわいがられ、会長の懐刀的立ち位置であったそうです。
社長が交代する際に、大変役に立つからということで先代から直々に継続して処遇するよう言われたとのことでした。

会長から深い信頼を得ていた番頭は、新社長を迎えても同じような態度をとったのです。
新社長より私の方が経営者にふさわしいといった態度が、誰の目からも感じられるようでした。

さらに番頭の年齢が社長のわずかばかり上であるということも、プレッシャーとなっていました。
会長と同世代なら、「少しの期間我慢すれば」という気にもなれますが、自分と同世代だけにいつまで続くか、途方もなく未来に感じられたでしょう。

まもなくして、社長は自ら選択した将来への道に従い、会社を離れました。
創業者である先代の事業承継の思惑は完全に破綻したのです。

事業承継を円滑に行うキーワードの一つは、先代の取り巻きの処遇です。
先代社長が重宝した人物が、次世代でもそうであるとは限りません。
人によっては先代の意を受けてと勘違いしてしまう人もおり、新社長の経営に齟齬を生じさせてしまった事例も散見されます。

そういった意味では、継がせる側の重要な責務に、自らの出処進退と自分が重宝してきた人材の処遇の取り扱いがあります。
新社長が経営しやすく手腕が発揮できる環境を整えてあげるのが、社長交代時の重要な仕事と言えます。
新社長から感謝される環境を作ってから譲ってあげましょう。

(2020年10月27日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「先代の取り巻きは新社長の邪魔になることも」
「継がせる側は新社長の手腕が発揮しやすい環境を整える責務がある」

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