今回は早すぎる事業承継対策が裏目に出た事例を紹介しましょう。
とある企業の社長は事業承継に非常に熱心でした。
早くから長男を後継者と決め、本人もそのつもりで育ってきました。
税理士の指導もあり子どものうちから会社の株式を非課税枠の範囲内で贈与し続けました。
その結果、長男が大学を卒業して会社に入社した時には、既に会社株式の過半数を所有する筆頭株主になっていたのです。
長男は入社後、社長の帝王学に真剣に取り組み、経営者らしく育っていきました。
そして学生時代からお付き合いのあった女性と結婚、男児を儲け、これで会社も後2代は安泰と社長は幸福感に浸っていました。
ある日、事件は突然起こりました。
長男が事故にあって急逝してしまったのです。
後継者を失った社長は失意のどん底に。
ところが社長を襲った不幸は、後継者を失ったことだけではなかったのです。
それは長男の相続です。
配偶者を迎え子どももいたため、社長は何も相続できませんでした。
妻と子どもが全ての相続人となり、その結果、会社株式の過半数は実質長男の妻が相続したのです。
ここまでなら孫の成長が期待して、という儚い夢も見ることができたのですが、更なる不幸が社長を襲いました。
長男の妻の実家が口出しし始めたのです。
そして株主総会で社長を解任追放、長男妻一族が経営を握るという乗っ取り劇が起きてしまいました。
素人に引き継がれた会社。
その後の経営は、予想通り傾いていきました。
相続税を気にするあまりの早めの承継対策が、経営者ばかりか会社にかかわる多くの人を不幸に陥れた事件でした。
担当:田口 光春(タグチ ミツハル)