第29話「セブン&アイに見る未上場企業における事業承継のヒント」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第29話「セブン&アイに見る未上場企業における事業承継のヒント」

最近の事業経営に関するニュースで、コンビニ業界のトップ企業「セブンイレブン」の持株会社のトップ交代が注目されました。
セブンイレブンを業界トップとして現在まで育て上げた、セブン&アイホールディングス(以下、「セブン&アイ」)の鈴木CEOの退任に関するものです。

事の起こりは子会社であるセブンイレブンの社長を交代させようとしたこと。
同社は委員会設置会社(会社法に定める会社組織形態のひとつ)であり、会社の業務を執行する社長等は指名報酬委員会という組織で決めてから、取締役会で最終決定がなされる仕組みとなっています。
今回は、その委員会で社外委員の反対があり否決された議案を、取締役会に上程し否決され、鈴木CEOの退任にまで発展したというのが経緯のようです。
名経営者の突然の退任に驚く一方で、企業に求められるガバナンス機構が正常に機能したという評価もあります。

この動きに関して、2016年4月18日付の日経新聞「経営の視点」では、別の観点から評論しています。
そのタイトルは「どうなる創業家ガバナンス」です。

セブン&アイは元々、伊藤雅俊氏が創業したイトーヨーカ堂から出発しています。
騒動ともいえる今回の動きは、その創業家の支持を得られなかったことが原因と、鈴木氏が記者会見で語っておられたとのこと。
本評論では、創業家は会社や経営者とどのような関係を持つべきが、創業家の関与は皆の納得する「正当性」を得られるか、といった問題を提起しています。
この問題提起は、株式上場といういわゆる「公器」になっている企業に関していえば、多くが納得できるものと言えます。

では、ファミリー企業、未上場企業ではどうなのでしょうか?
未上場・ファミリー企業の事業承継という視点からこの評論を読み返しますと、大いに参考になると思います。
特に、株式の殆どを創業家が保有する未上場企業で創業家に後継者が見当たらない、というようなケースには。

社内に後継者を求めても、創業家が保有する株式を引き受けるには負担が重すぎるということはよく起きています。
そのため、事業を続けるために、M&Aといった手段で他社に経営を委ねることも増えています。 一方で、創業家として完全に会社と縁を切るのは忍びない、といった感情も否定できないところです。

今回のセブン&アイを反面教師に考えると、非上場であっても、資本(経営権)と経営を分離することも、事業承継の姿のひとつになるということを改めて感じました。
つまり、株式は創業家で保有し続け、経営は社内の適任者に任せるといった形です。

創業家が経営から退いた事業承継は数多く見てきましたし、本コーナーでも紹介しました。
将来、創業家に経営を戻す可能性を残しつつ、経営を他人に委ねるのも、創業家として会社の従業員・取引先等ステークホルダーに報いる一つの方法、と評価してもいいのではないでしょうか。
但し、提供している担保や借入の連帯保証をどうするか、どこまでを委ねるか、といった課題は残りますが。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

創業家に資本があれば、上場企業でも経営に影響を与えることがある
資本と経営を分離することも事業承継を進める考え方の一つ

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