複数の子どもがいる経営者の事業承継の難しさは、本シリーズでも紹介してきました。
例えば、後継者指名が混迷した第59話、経営者が苦渋の選択をした第11話、子どもそれぞれに役割を与えた第33話など、様々な事例があります。
今回は、2人の子どもが会社に入ってきた際に経営者が選んだ、見事な行動を見てみます。
創業1世紀になろうかとしている食品メーカーの話です。
社長は3代目で還暦を少しばかり過ぎた時期に面識を持ちました。
その時、社長から
「事業の将来を考えると絶対に息子に引き継ごうとは思っていなかったけれど、まもなく息子2人が入社する。」
という話を聞きました。
複数の子どもが社内にいると何かと問題が起きるケースが多い、ということも承知の上の決断でした。
長男はコンサルティング会社を、次男は大手商社の海外勤務を経験しての入社で、後継者として両者とも経歴には問題なく思えました。
しばらくすると、社長からご相談がありました。
「どこかいい会社が売りに出ていないかなあ。一人の息子に任せたい。」
兄弟別々に経営させたほうが、将来的なリスク・トラブルを避けられるから、とのことでした。
その時に、
・現在の会社に近い業種(全く違うと社長が経営をサポートすることが難しいから)
・会社から車で1時間以内で行ける距離にあること(社長が直々にサポートできる距離)
という条件が出されました。
これを聞いて大いに納得できたのです。
『業種も場所もなんでもいいから会社を買収したい』と考えるケースが多々あります。
しかし、この社長は、『息子に経営させるために最もふさわしい会社は何か』を理解されていると感じたのです。
各方面の協力を得て数社との交渉を重ね、少し時間はかかったものの、上記の条件はそのままに目的通りの会社を傘下に収められました。
複数の子どもを同一社内に入れた場合に起こりうる将来的なリスク・トラブルを避けるために、会社を買収することは大いに納得できます。
ただし、その場合、“どんな会社でもいいから”では、渡された子どもの将来には不安が残ります。
状況によっては両社の強みを活かせず、助け合うこともままなりません。
そこまで考えた今回のケースは、同じような問題を抱えた会社の参考になるのではないでしょうか。
(2019年6月25日更新)
担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)
事業承継に必要な準備へのアドバイス、また行動のためのサポートを行っていきます。経営者・後継者どちらのお立場の方でも、お気軽にご相談下さい。