第15話「老舗だからこそ起きたトラブル」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第15話「老舗だからこそ起きたトラブル」

創業3四半世紀を迎えようとしていた企業の話です。

株式は創業者の子ども2人(男子と女子)一族に引き継がれ、それぞれほぼ同数を保有、その他重要な取引先にも関係強化のため応分の株式を保有してもらっていました。
私がこの企業に出会った時には創業者の孫の代になっており、株式はさらに分散し、筆頭株主は取引先という状態になっていました。

その時の社長は創業者から4代目でしたが、その系譜は初代=創業者、2代目=創業者長男、3代目=長男の子、4代目=創業者の娘の長男、という流れでした。

4代目はそれまでの経歴、大手企業の幹部として揮ってきた手腕を見込まれ、2代目である叔父、3代目の従兄弟に乞われる形で就任していたのです。
3代目の本心は将来自分の息子を社長にすることにあり、4代目はあくまでワンポイントリリーフの予定でした。

しかし4代目は3代目の意に反して、
将来に亘って自分の直系で経営を承継していきたいと思うようになったのです。

その時点では、どのグループも株式の過半数を保有しておらず、3代目グループがわずかの差で筆頭株主グループとなっていました。
そこで4代目は3代目直系を経営から排除するため、株主総会の多数派工作を始めたのです。
それは唯一、社外株主であった取引先の総会における議決権の委任を取り付けることです。

申し出を受けた取引先は即答を避け、社内で協議されました。
これまでの取引経緯、これからの取引方針から、今回の申し出にどのように対処したらよいかを。
そして出された結論は、どちらかの肩を持つのではなく、委任状は提出せず株主総会を欠席することでした。
もちろん、欠席しても総会の議事進行に支障をきたさないことを確認してのことです。

それを受けた株主総会では、波乱を含みながら、それまでの役員構成が継続される決議がなされました。
しかし、両グループの間には決定的な溝が生まれ、経営がギクシャクするようになり、それとともに業績も右肩下がりになったのです。

そして数年が経過し、本来持っていた、期待されていた手腕を発揮することなく4代目は退任し、3代目の長男が社長に就任するとともに、 経営陣も3代目グループで固めることになったのです。
株式も経営から退いたグループからの要請を受けて、徐々に買い取りをおこない、現在は3代目グループが名実ともに経営権を掌握しています。

この企業は間もなく創業100年を迎えようとしています。
業績と言えば鳴かず飛ばずで、往年の面影はありません。
返す返すもあの数年がなければと残念です。

このトラブルの根源をたどると、初代創業者の優しさ、特に子を思う親の気持ちです。
どの子も一緒という親心で株式まで平等に扱った結果が、数十年後のトラブルの火種となっているのです。

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

経営権の裏付けは株式数
今の行為が数十年後のトラブルの元凶になるかもしれない

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