第90話「非同族化した会社の事業承継策」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第90話「非同族化した会社の事業承継策」

その会社と出会ったのは約25年前でした。
既に創業一世紀を超えた名門企業で、売上は3桁億円、従業員は4桁名となっていました。その時の社長は4代目でしたが、創業家一族ではなく、社員から登用された2人目の方でした。

創業家社長は2代続きましたが、3代目への承継時には、創業家には適任な人物が見当たらず、社員の中から社長を選ばれたとのことでした。
特に事業が順調で、経営に関わっていない人物では経営が難しいと、2代目が判断されたようだとのことです。

社長を非同族に引き継ぐとともに、創業家が保有していた株式も徐々に一族外に譲渡されていきました。
相手は社員だけでなく取引先や取引銀行などにもおよび、その結果株主数も3桁になろうとしていました。

4代目社長と経営に関してよもやま話をしていた時、社長は会社株式が分散していることに悩んでいると話してくれました。
分散した状態で、今後社長の意中の人を次期社長に指名できるか、会社を円満に継続していけるか不安であるということでした。
つまりは意中の人を社長に指名することを、株主によって拒否されることが起きるのではないかということです。

創業家が主だった社員に株式を譲渡したことの想いは当時においては十分に評価できる行為でした。
しかし時間がたつとともに、社員の退職、そして相続により会社に関係ない人が株主として現れるようになったのです。

現在では定款に定めることで、相続で会社が望まない株主を排除することができますが、当時はたとえ定款に株式の譲渡制限を設けていても、相続には太刀打ちができませんでした。

そこで、個人株主がそれぞれ株式を持ち寄り、一般社員については従業員持株会、役員については役員持株会の設置を提案しました。

持株会設立の目的はただ一つ、退職時に株式を会に売却し残していくことで社外に持ち出されないようすることです。

退職のタイミングで取引価格が変動すると、不平等が生じかねませんので、取引価格は一定にし、それに応じるために配当は確実に行い、しかも個人に還元することとします。
一般的に持株会では毎月の給与時に積み立てを行い、その積立額に対して一定の割合を会社が補助するほか、配当金は積み立て、持株会事務も証券会社など外部に委託しますが、そうしたことは行いません。

いわゆる上場会社が行っている持株会の運営とは異なります。

そのため、金融商品取引法(当時は「証券取引法」)が定める持株会とは異なり、有価証券届出書や有価証券通知書の提出に関する定めで、持株会が株主1人とすることはできません。
あくまでも証券取引所に上場していない未上場会社で、社内株主が大勢いる場合の対処法です。

さらには、退職してからも株主でいたいから、継続して保有したいという要望に対しても、法的対処が難しいのも事実です。
辞めてからも会社が盛り上がっていくことを期待するという社員の善意に寄り添った仕組みです。

この私の提案に対して、社内でかなりの時間をかけて検討され、実行することになりました。

冒頭で言ったようにあれから四半世紀過ぎています。
その間に社長は3人交代されていますが、社員の会社であることは変わらず、3人の社長も皆さん社員から昇格されています。
今後もこの体制で会社運営されることで、安定した体制が続いていくと思います。

(2021年7月27日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「中心となる同族株主がいなくなった後の体制は」
「社外に株式を分散させないためだけの持株会」

後継者選びでお困りの方はご相談ください。

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