今回は、親族が社内にいたにも関わらず、社長の遺言により非同族化した事例です。
その会社を知ったのは20数年前になります。
ある地域で、有力な食品問屋を営んでいる会社です。
当時の社長は2代目。
その数年前に生死をさまようような病気となり、手術を経験されていました。
お会いした時には社業に戻っておられましたが、日常生活も厳しいと感じられるような状況でした。
代わりができる人材が社内におらず、無理をされていたように感じました。
弟が専務に就いていましたが、社長の代わりができる能力は持ち合わせていないということでした。
他の役員・社員の中にも、すぐにその任に堪えられる人材はいませんでした。
また、社長には子供がなく、弟以外に親族承継の可能性がなかったのですが、弟の可能性はゼロに近しい状況でした。
残された人生で次を育てることが、社長の重要な仕事となりました。
その対象は弟ではなく、社長自ら目を付けた社内の人物を身近に置き、自らの経営のエッセンスを伝えようとされたのです。
まさに「鬼気迫る」とはこのことでしょう。
そして黄泉の国に旅立たれるときがやって来たのです。
既に告知され、覚悟はされていましたので、残される会社の行く末について遺言という形で残されていました。
そこには後継者として社長が英知を注ぎ込んだ人物が指名されていました。
専務については、将来も安心して生活できるように処遇するよう指示されていましたが、会社での重要な役は示されていませんでした。
また、経営が安定するよう、保有している自社株の取り扱いについてもきめ細かく指示されていました。
誰かに偏ることがないように、幹部社員に贈与されたのです。
一定の範囲内であれば、税務上安価な価格での算定が許されるため、贈与税が大きな負担にならないように配慮されていました。
そして極めつけは、個々に散らばった株式を「持株会」で集約するよう指示されていたのです。
こうした経緯を経て、現在では創業家から離れた会社となっています。
業績も以前に増して好調を維持しており、まさに我々の会社という意識で、全社員一丸で社業に取り組んでおられる結果だと思います。
こうした状況を高いところから見ておられる2代目社長も、納得して満足されていることでしょう。
そしてもう一つ。
これを実現できた背景に、この会社が過去から高い収益力を誇り、銀行からの借入がほとんどなかったということも見逃せません。
もしも銀行借入に対する個人保証があったならば、親族外への承継の結果は、また違ったものになっていたかもしれません。
(2020年6月23日更新)
担当:事業承継相談員 田口 光春(タグチ ミツハル)
事業承継に必要な準備へのアドバイス、また行動のためのサポートを行っていきます。経営者・後継者どちらのお立場の方でも、お気軽にご相談下さい。