第52回 中小企業が考えるM&A② ~成否を分けるPMIとは~|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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2023.12.26公開

中小企業が考えるM&A② ~成否を分けるPMIとは~

前回は中小企業のM&Aに焦点を当て、M&A全体の流れと注意点について解説いたしました。
今回は、M&Aが成功するかどうかを左右する要素の一つである「PMI」を取り上げます。
そもそものPMIの意味から中小企業におけるPMIの進め方までをご紹介します。

1.PMIとは

PMIとは「Post Merger Integration」の頭文字を取ったもので、直訳すると「合併後の統合プロセス」という意味になります。

中小企業庁が発行した「中小企業PMIガイドライン」では、「PMIとは、主にM&A成立後に行われる統合作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なものである」と記されています。

M&Aの成功はその成立ではなく、M&Aの目的として当初に期待された効果を実現できるかどうかが最も重要です。
つまり、PMIはM&Aの成功を左右すると言っても過言ではありません。

M&A巧者として有名な永守氏も「登山に例えれば、M&Aは契約の時点で2合目しか登っていない。
残りの8合分は企業文化の違いを擦り合わせる『PMI』という手間のかかる作業で、これがまた難しい」と言っており、PMIの重要性はこの言葉からも見て取れるかと思います。

2.中小企業PMIの実態

それでは、現在の実態として中小企業はPMIに成功しているのでしょうか。

中小企業白書によると、図に示す通りM&A実施後の総合的な満足度を下回っていると回答した企業は24%で、M&Aに成功していない企業も少なくないのが現状であるといえるでしょう。


出典:中小企業白書(2018年)

また、その理由としては「相乗効果が出なかった」、「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」、「相手先の従業員に不満があった」等が挙げられており、M&Aの成否を担うのはPMIを行うための事前調査やM&A実施後のPMIであると言えます。


出典:中小企業白書(2018年)

実際、PMIの着手時期が早いほどM&Aの成果が得られている企業が多く、この調査結果もPMIがM&Aの成功に重要であることを支持しています。


出典:企業買収の実務プロセス第3版(中央経済社・木俣貴光)

3.PMIの流れ

ここまででPMIの重要性は理解できたかと思います。
ここからは実際いつからPMIを始めればいいのか、またPMIの実際の流れに関して説明をします。

一般的にPMIでは、M&A成立後初日から一定期間に集中して行われる統合作業を指すことが多いです。
しかし、M&A成立後に円滑にPMIプロセスへ移行するためには、M&A成立前からPMIに向けた準備をすることが重要になります。

中小企業PMIガイドラインにおいてもPMIをM&A成立後にとどまらず、M&A成立前から始まる取り組みとして整理しており、「PMIは、M&Aプロセスと並行して検討を開始し、M&A成立後の集中実施期を経て数年単位で取り組む継続的な活動である」と表現しています。

以下に一般的なPMIのプロセスを図示します。
図からもM&Aの初期検討段階からPMIを意識して行動することの重要性のイメージが湧きやすいと思います。


出典:中小PMIガイドライン(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

PMIは大きく分けて4つのステップ「M&A初期検討」「プレPMI」「PMI」「ポストPMI」に分けられます。
それぞれのステップで重要な点を説明いたします。

① M&A初期検討
M&Aの初期検討においては、M&Aの目的を明確化し、成功について定義することが重要です。
このM&Aの目的を明確化しないまま売り手をさがし、成り行きでM&Aを行うとPMI段階でのリカバリーが困難になる可能性が高くなります。

② プレPMI
プレPMIでは、PMIを意識した事前準備を行います。
ここではM&Aの目的の実現に必要となる取り組みを意識し、デューデリジェンス(買収監査)等の調査を通じて売り手に関する情報を可能な限り入手しておくことが重要です。

また、クロージング前においては何が把握できていないか、把握するためにはクロージング後にどのような対応が必要かを想定し、「M&A成立後の集中実施期に何をするか」をあらかじめ計画しておくことも重要です。

③ PMI
PMI(集中実施期)においては。PMI推進体制を構築したうえで取り組みを実行します。

まずはPMI推進体制を構築することが最重要です。
M&Aの成立から100日以内に体制を確立することが望ましいと言われます。

PMIの推進に求められる役割を整理し、買い手と売り手の適切な人材で役割分担しながら進めることとなりますが、PMIの検討事項は多岐にわたり、専門的な知見が不足することも多いです。
また、中小企業では人的リソース自体が不足していることも多いので、外部リソースの活用も検討することが望ましいでしょう。

体制の構築が完了したら、売り手の事業に関して詳細な現状把握を進めながら、新たに把握した課題への対応も含めて取り組み方針を検討し、計画的な実行と効果検証を行う必要があります。

しかし、中小企業では全ての課題に取り組むだけの人的リソースや資金的余裕があるわけではないので、どの事項への対応が必要であるかを検討し、優先順位をつけて集中的に取り組むことが重要です。

④ ポストPMI
1年目途の集中実施期において、すべてが終わるとは限りません。
ポストPMIではこれまでの取り組みを踏まえて、更なる取り組みを行うことがあります。

M&Aの目的やPMIの進行状況等に応じて、買い手・売り手の更なる統合を行うなど、グループ組織体制の見直しも必要に応じて検討していきます。


M&Aの経験が豊富な企業であっても、PMIに失敗するケース例は少なからず存在します。
失敗を恐れずに果敢にチャレンジするとともに、失敗の経験から学び続ける姿勢を持ち続けることが重要です。

4.中小企業PMIの勘所

中小企業は大企業に比べてPMIが難しいといえるでしょう。
その理由は大きくは分けて「PMIを推進するリソースがない」「経営者個人の色が強すぎる」「業務の俗人化・ブラックボックス化」「心情面の影響が大きい」という4つの理由があります。

それでは、中小企業がPMIを成功させるためには何が必要でしょうか?
PMIの成功に向けて取り組むべき項目を以下にまとめました。

※筆者作成

多岐にわたり取り組む項目があることが一目に見て取れるかと思います。
しかし、これら全てをやり切ることは可能でしょうか?

結論、すべてを行うことは難しいです。
従って、中小企業のPMIでは優先順位をつけて取り組むべきテーマを決めて取り組んでいくことが非常に重要になります。

それでは、優先順位はどのようにつければよいでしょうか?
優先順位は「実務的な課題」>「組織的な課題」>「感情的な課題」の順につけるのがよいでしょう。
それぞれについて簡単に図にまとめたのでご覧ください。


※筆者作成

実務上では上記に示す優先順位で課題を解決していくことになりますが、実はその前に行いたいのが「クイックヒット」です。
「クイックヒット」とは「M&A直後にすぐに取り掛かることのできる小さな施策」のことを指します。

売り手側従業員の立場からすると、自分が所属している企業のM&Aが自分にとって有効なのかという判断を早急に判断したいという心理が働きます。
そのため、「クイックヒット」として早急にM&Aのメリットを実感してもらうことの意義は大きくなります。

「クイックヒット」に関して、弊社の支援事例の一つでいうと、新しいパソコンへの入れ替えが功を奏したケースを紹介します。支援初期段階で譲渡企業の現場インタビューを行った際に、ある若手社員からパソコンが古く生産性が著しく落ちているという問題が出てきました。
そこで、譲受企業から来た新社長はパソコンの総入れ替えをすぐに実施しました。結果、社員からは新しい親会社になって不安でしたが、これから更に良くなるかもしれないという期待感を生み出すことに繋がりました。


※筆者作成

このような些細なことでも、M&A後に少しでも変化したということをすぐに感じてもらえるかが非常に需要になってきます。

またPMIの実施状況を見える化をすることもオススメしております。
譲渡企業側の従業員からすると、先述の通り良い方向に変化していることを感じてもらうことが重要になってきます。
事例を以下に記載するように、進捗管理表を作成し社員がいつでも見える状態にしておくことがポイントです。ある会社では、進捗管理表を張り出ししておき、月1回の全社会議で共有するという取組みもありました。その会社では、PMIも非常にうまくいっており、社員からも主体性が出てきた好事例となっています。


※筆者作成

これまでPMIを説明してきましたように、「M&Aが成功するか否かを左右するのはPMIによる」といっても過言ではありません。
自社のみでPMIを行うのが困難だと判断した場合は、外部リソースの活用を積極的に検討したり、専門家の意見を必ず聞くようにしましょう。

皆様のM&Aによる成長戦略が成功することを願っております。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

畦田 佑登(うねだ ゆうと)氏

畦田 佑登(うねだ ゆうと)氏

 

M&Aイノベーション株式会社 代表取締役社長
神戸大学経営学部を卒業後、デロイトトーマツグループのトーマツイノベーション株式会社にて経営、戦略、人事のコンサルティングを経験。大阪支社の立ち上げ、営業責任者として500社以上の教育制度導入支援を行う。2018年に神戸大学大学院 専門職大学院にてMBAを修得。
その後、白潟総研の大阪支社立ち上げをし、グループ子会社のM&Aイノベーション株式会社の代表取締役に就任。
中小企業に対して、「人と組織の成長」に関するコンサルティングを専門とする。具体的には、M&A、採用支援、組織開発・組織変革、人事評価制度構築、教育制度構築、幹部・管理職へのプライベートコーチング、トップセールスのノウハウ標準化など。
M&Aにおいては、アドバイザリーだけでなく買収後の組織統合プロセス(PMI)も支援する。

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