第8回 契約の基礎知識② ~契約書の方式について~|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2020.8.25公開

契約の基礎知識②
~契約書の方式について~

物やサービスの売買や賃借など、会社を運営する上で「契約」とは切っても切れません。
契約を結ぶ上で、御社はきちんと契約書を作成していますか?また、実印と認印の選択は適切になされているでしょうか?
今回は、契約書と押印について、今一度押さえておいていただきたい基本的なポイントを解説します。

契約書を結ぶ意味

契約書には、連帯保証契約、定期借地権契約、定期借家権契約などのように、法律上書面で作成することが要求される契約があります。
しかしこのような契約書を除いて、民法では、口約束でも当事者の意思の合致が認められれば口頭の合意でも契約が成立するとされています。

一方で、口頭での約束では、後日にいざトラブルが起こった場合、言った・言わないの水掛け論になったり、そもそも契約内容自体があいまいで、それ自体の解釈が問題となったりして、紛争を解決することが困難となる事態が生じます。

口約束においてお互いの言い分が食い違う場合、訴訟になれば、関係者の証言や当事者の尋問などで、当時の口頭での約束を立証することになります。

しかし、当時の記憶などに頼らざるを得ないため、詳細な契約条件を立証することは難しく、紛争解決の基準としては、極めて不安定なものになります。
訴訟では、争点について白黒をはっきりと判断されるため、口頭での合意による場合、自己の主張通りの認定や評価がされない時のリスクは大変大きくなります。

そこで、当事者の合意内容を明確に契約条件として記載して、トラブルが起こった時に、定められた条件通りの解決をめざすとともに、万一訴訟になった時の有力な証拠とするために契約書を結ぶことが一般的です。

契約書に詳細な契約条件を記載しておくことで、取引の条件やトラブルが起こった時の基準が明確になります。
そして、契約書を根拠にして相手方に記載の条件通りの履行を求めることができ、また裁判になった時も、契約書を提出することで、当事者の契約内容等を証明することができます。
そのため、証人や当事者の尋問を行う前に争点が絞られる結果、自己の主張通りの事実が認定されないことのリスクは大きく軽減するものと考えられます。

契約書への押印の意味

訴訟で、契約書等の文書を証拠として使おうとする場合、使おうとする者は、文書が本人の意思によって作成されたこと(文書の真正)を証明する必要があります。

民事訴訟法には、本人(またはその代理人)の署名や押印がある時は、文書が本人の意思に基づいて作られたものと推定する旨の規定があります。
ここでいう署名や押印は、本人(または代理人)の意思に基づいたものといえなければならないとされていますが、押印については、文書中の印影が本人(または代理人)の印鑑によってなされた場合に、反対の証明がない限り、印影は本人または代理人の意思に基づいていたものと事実上推定します、とする判例があります。

そのため、文書に本人の印鑑の印影があることがいえれば、本人の意思に基づく押印であることが事実上推定されて、その結果、上記の民事訴訟法の規定が適用となり、文書が本人の意思で作成されたものと推定されます(「二段の推定」と呼ばれています)。

この推定を受ける場合、相手方がこれを争うためには、印鑑の紛失、盗難、盗用や、別の目的で押印した文書が悪用されたなど書面が本人の意思に基づくものでない事実を主張して証明する必要があります。

契約書などの書類が、権限のあるものによって作成されている文書であることを示すため、署名や押印をすることになりますが、日本では押印された文書への信頼が高く、登録のある実印については印鑑証明書を利用できる利点もあります。
また以上の通り、本人の押印された印影であると証明することで、反対の特段の事情の証明がない限り、本人の意思に基づいた文書であると推定されることもあり、契約書に押印を求めることが一般的となっています。

実印と認め印の違い

では、契約書の押印について、実印と認め印との間で違いはあるでしょうか。

実印は、個人の場合、住民登録をしている地方自治体で印鑑登録した印鑑をいい、法人の場合、法務局に登録した印鑑のことをいいます。
実印については、印鑑が本人のものであることについて印鑑証明書という証明方法があり、裁判でこの印影は私のものではないと争われても、本人の印鑑による印影であることが容易に証明できます。

上記以外の認め印では、そのような証明書の発行はなく、その人が他の文書で同じ印鑑を使用した事実などで本人の印鑑であることを証明する必要があります。
また、実印等は、慎重に保管するのが通常ですので、相手方の紛失、盗難、盗用などの反論もより通りにくくなります。

そのため、取引基本契約書などの取引全般にかかわる重要な契約書や、消費貸借契約書などの本人が締結したことが問題となるような契約書では、より証明の効果の高い実印による押印を求められるのがよい方法であるといえるでしょう。

押印に代わる方法

裁判の証明の場面で、署名の場合でも本人の意思に基づく署名であることを証明できれば、本人の意思に基づく文書として証拠として採用されます。

また、押印のないメールなどをプリントアウトしたものも、文書に準じた証拠としての取り扱いがされています。
電子署名及び認証業務に関する法律3条は、一定の要件を満たした電子署名について、押印と同等の効力を認めています。

ただし、押印の場合に文書中の印影が本人(または代理人)の印鑑によってなされた場合に、反対の証明がない限り、印影は本人または代理人の意思に基づいていたものと事実上、推定するとの判例は、署名の場合に妥当しないとされます。

そのことから重要性の高い契約書について署名で行う場合は、本人の署名であるかどうかが争われた場合に備えて、契約時の公証人の立ち合いや筆跡鑑定の利用など証明方法に工夫が必要となります。
なお、相手方が同意すれば、印鑑証明書の利用に代わる電子署名や電子認証サービス等の利用により、契約書を電子化する方法も考えられるところです。

まとめ

契約には、口頭の合意だけでも効力が認められる契約が多いですが、契約条件を詳細に契約書記載して後日の紛争を防ぐようにされるべきです。
また、紛争になった場合の証拠として、契約書を適切に機能させるために、署名だけでなく押印を求める(押印を求めない場合は、それに代わる方法をとる)ようにしておきましょう。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

大西 隆司(おおにし たかし)

大西 隆司(おおにし たかし)氏

 

なにわ法律事務所 弁護士
大阪産業創造館 経営相談室 経営サポーター

2004年 司法試験合格。
2006年 弁護士登録(大阪弁護士会)。
企業法務を主要に扱う事務所にて勤務弁護士として約5年半所属。
同事務所の特徴であったM&A案件、事業再生案件に従事する傍ら、企業の労務トラブルの解決予防を集中的に取り扱う。
2012年 なにわ法律事務所を開業。
企業法務という得意分野を生かしつつ、より身近な法律問題について予防法務、戦略法務を取り入れたトラブルの解決を図るべく、独立開業。
中小企業法務に特化した対応を中心に同事務所の代表弁護士として業務にあたる他、セミナーでの講演、ラジオパーソナリティ、法律書の出版と幅広く活動中。

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