新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業が事業の休業や縮小を余儀なくされ、緊急融資制度を検討しておられることと思います。
今回は、『融資』をテーマに、基本知識や中小企業向け制度のポイントをお伝えします。
融資をする金融機関の種類
事業資金の融資をする金融機関には複数の種類があります。
代表的なものは、政府系金融機関である日本政策金融公庫と、いわゆる「銀行」と言われる民間の金融機関です。
日本政策金融公庫は、前身の国民金融公庫という名前から「こっきん」と呼ばれることもありますが、現在は「日本公庫」という略称で呼ばれることも増えています。
創業の際の資金調達では、日本公庫からの融資を検討されることが多いです。
一般的な貸付も広く行っています。
また、政府が一部出資をしていることから、公的な役割も持っています。
例えば、大きな災害や今回のような新型コロナウイルスによる環境変化があった時の資金需要についても柔軟に対応する、セーフティネットのような存在でもあります。
政策に沿った事業を行うため、民間金融機関に比べ、低い金利での融資を行います。
一方で、民間の金融機関は、民間からの資本により運営されている金融機関です。
民間金融機関のうち、都市銀行や地方銀行は株式会社であり、株主利益が優先されます。
したがって、利益を追求する経営が基本姿勢となっています。
信用金庫や信用組合は共同組織の金融機関であるため、地域の繁栄を図る相互扶助を目的としています。
第一地方銀行といわれる金融機関は、地域の中堅企業が主な取引先となります。
中小企業では、第一地方銀行から第二地方銀行、そして信用金庫や信用組合から融資を受けるケースが多いです。
初めて民間の金融機関からの融資を考える場合は、“自社の規模感とマッチしているか““親身に相談に乗ってくれるか”“本業支援にも力になってくれそうか”“他の経営者からの評判はどうか”などを参考にして、選ぶとよいと思います。
日本政策金融公庫の融資の種類と特徴
日本公庫は創業融資のイメージが強いですが、事業を既に開始して時が経過している企業にも、一般貸付や新事業に対応した貸付、事業承継に伴う支出を支える事業承継融資など、幅広く対応しています。
政府系金融機関であり政策に沿った事業を行うため、民間金融機関に比べ、低い金利での融資を行います。
民間金融機関に比べると融資を受けやすいという利点があります。
また、公的な役割として、大規模災害発生など経済環境が大きく変化するような事態が起こった時の資金需要にも、いち早く柔軟に対応している機関という特徴もあります。
例えば、今回の新型コロナウイルスの影響に対する緊急融資についても融資制度が準備されており、順次実行されている模様です。
本制度のポイントは、前年同月比売上高5%減で申込可能、要件によっては3年間3,000万円まで、利子補給の制度あり、という点です。
【参考】日本政策金融公庫HP『新型コロナウイルス緊急融資について(セーフティネット貸付)』
https://www.jfc.go.jp/n/finance/saftynet/covid_19.html
※かなり混み合っており、申込から融資実行まで、少なくとも2カ月はかかるようです。
(2020年5月7日時点)
他にも、企業規模や利用対象者、融資目的などによりさまざまな融資制度が揃えられています。
詳しくは下記ページをご参照ください。
【参考】日本政策金融公庫HP『融資制度一覧から探す』
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/index.html
民間金融機関の融資の種類と特徴
民間金融機関からの融資の種類は大きく分けて3つあります。
ポイントは「誰が責任をとるのか」ということです。
①信用保証協会の保証付きの融資(信用補完制度)
信用保証協会は、中小企業・小規模事業者が金融機関から事業資金を調達する際に、保証人となって融資を受けやすくなるようサポートする公的機関です。
47都道府県と4市(横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市)にあり、各地域に密着して業務を行っています。
【参考】大阪信用保証協会HP
https://www.cgc-osaka.jp/
保証協会付き融資とは、中小企業(小規模事業者含む)・金融機関・信用保証協会の3者で成り立っている信用保証制度を利用した融資であり、企業が保証料を負担します。
「保証付き」の意味ですが、融資の返済が不可能になった場合、信用保証協会が借入金を金融機関に弁済します。
これを代位弁済といいます。
代位弁済が実行された場合は、信用保証協会が債権者となり、企業は信用保証協会へ弁済することになります。
融資の申込みを受けたら、事業内容や経営計画等を検討し、保証の諾否を決め、金融機関に連絡をします。
信用保証協会による保証承諾後、金融機関も審査の上、金融機関が融資をします。
つまり、保証協会での審査と、金融機関での審査、ダブルでの審査があると考えておくとよいでしょう。
通常は、中小企業は大企業に比べ信用力に劣りますので、信用保証協会の保証を受けて、融資を受けることはよく行われています。
②プロパー融資
信用保証協会の保証のついていない、金融機関が独自に行う融資のことをいいます。
保証協会に対する保証料の負担がないため、全体的にコストを少なくして調達できる方法になります。
しかし、貸し倒れのリスクを100%金融機関が引き受けることになるため、審査は厳しくなります。
また、創業から2期目まではプロパー融資は実行しないという金融機関も多くあります。
そのため、まずは保証協会付きの融資で実績を積んでから、プロパー融資を検討するというケースがよく見受けられます。
金融機関によっては、不動産担保がなければ一切プロパー融資は受け付けないということもあるようです。
保証協会の融資枠は、1企業でいくらと決まっていますので、保証協会付きの融資を受けていたとしても、可能であればプロパー融資に順次切り替えを行い、保証協会が使える融資枠を温存しておくことも有効です。
③制度融資
都道府県などの地方自治体が、中小企業や会社を創業したい人へのサポートを目的として行う融資です。
通常、金融機関が窓口となり、自治体からの預託金を用いて融資をします。
この融資制度は、保証協会の保証付きの融資を自治体が支援する融資で、自治体・保証協会・金融機関の3者が関わる融資となります。
多くの自治体が複数の制度融資を設けていますが、内容や条件はそれぞれ異なります。
例えば、大阪府では、大阪府と大阪信用保証協会、指定金融機関の3者が協調して、中小企業などの新規の創業資金や、創業後の事業資金の融資を行っています。
【参考】大阪府HP『制度融資(信用保証付き)のご案内』
http://www.pref.osaka.lg.jp/kinyushien/seido001/
また、大阪市では、市内中小企業者・創業者向けの融資制度も用意されています。
【参考】大阪市HP『中小企業向け融資制度のご案内』
https://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000295589.html
制度融資の融資業務自体は金融機関が行いますが、融資基準を満たすかどうかの判断はまず、自治体の担当者が行います。
そこで融資基準を満たしていると判断されれば、次に金融機関・保証協会で審査を受け、融資を受けることができます。
メリットは公的支援の意味もあるため、金利が低いことです。
セーフティネット保証制度・危機関連保証制度
発的な災害等への対応、取引先の再生による事業活動制限や連鎖倒産の防止、全国的な業況悪化業種の救済などを目的とした制度がセーフティネット保証(経営安定関連保証)制度です。
また、上記のような場合に、中小企業に起こる突然の経営危機に対応するため、保証限度額の別枠化を行う制度が危機関連保証制度です。
【参考】中小企業庁HP『セーフティネット保証制度』
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sefu_net_gaiyou.htm
今回の新型コロナウイルス対策の融資制度についても、セーフティネット保証4号、同5号、危機関連保証の各制度が講じられています。
これらも制度融資の仕組みと同様に、自治体で要件に合致するかどうかの認定をもらい、それをもって、金融機関を通して、保証協会に保証を申し込み、金融機関が融資を実行するものです。
今回の新型コロナウイルス対応のセーフティネット保証4号であれば、前年同月比売上高が20%減少していることを、市町村に認定してもらいます。
セーフティネット保証5号は5%の減少、危機関連保証は15%の減少が認定の要件となっています。
その後、認定書を金融機関を通して保証協会に提出し、審査の上、融資が実行されるものです。
また、2020年5月1日からは、民間金融機関の新型コロナウイルス対策緊急融資(セーフティネット保証4号、5号、危機関連保証)について、一定の要件のもと、3年間3,000万円まで、保証料ゼロもしくは減免、無利子となる施策が始まっています。
こちらも該当する方はご利用いただくとよいかと思います。
【参考】経済産業省HP『民間金融機関において実質無利子・無担保融資を開始します』
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200501008/20200501008.html
なお、セーフティネット保証制度・危機関連保証制度は、緊急時を前提とした制度になるため、その発生事由やエリア、状況により、対象や申込要件が大きく変わる場合があります。
都度、しっかりと情報を集めることが大切になります。
借入額の考え方
先述の通り、現在、新型コロナウイルスによる環境変化に伴う売上減少などに対応する融資制度が準備されています。
具体的には、日本政策金融公庫のセーフティネット貸付、民間金融機関から受けられるセーフティネット保証4号、5号、危機関連保証です。
どのような影響を受けているのかは企業によって様々かと思います。
しかしながら、おそらく緊急事態宣言が解除されたとしても、コロナウイルスに対して気を付けながら活動することなど、影響はしばらく続くと考えられます。
その前提で、資金繰りを考える必要があります。
今回に限らず、先行きが見えないときは、できるだけ多く手元に資金を持っておき、半年~1年は持ちこたえられるようにしておくことが望ましいです。
では、いくらの資金を準備しておくべきなのでしょうか。
まずは、今後半年~1年間の資金繰り表を作成しましょう。
資金繰り表のフォーマットは下記よりダウンロードいただけます。
月次資金繰り表(Excel)
資金繰り表を作成する上で注意したいポイントは下記となります。
◆業況については、保守的に見て、予測をしましょう。
今すぐは難しいかもしれませんが、不要不急の経費があれば見直しも必要です。
◆得意先の業況によっては、売掛金の入金が遅れるところもあるかもしれません。
営業担当からそのような情報があれば、入金予定を保守的に見積もる必要があります。
◆一時的な休業をするのであれば、従業員さんに支払った休業手当の一部について、雇用調整助成金の助成を受けることが可能です(要件があります)。
休業手当の支払い、雇用調整助成金の申請・受給のタイミングについても織り込んで資金繰り表を作成しましょう。
【参考】厚生労働省HP『雇用調整助成金』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
資金繰り表を作成すると、半年持ちこたえるには、どのくらいの資金があればよいか、大まかですが把握することができます。
この必要資金を目安に、融資を受けられることが理想的です。
日本政策金融公庫のセーフティネット貸付と、民間の金融機関を通じての緊急融資制度(セーフティネット保証4号・5号・危機関連保証)の一方、あるいは両方を活用して、今を乗り切る資金を確保しましょう。