第34回 DXの取り組み事例とDXの立案|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2022.8.23公開

DXの取り組み事例とDXの立案

前回、DXの基本と実現のための3ステップについて確認しました。今回は、私が実際に関わった企業のDX取り組み事例 (製造業と小売業)を通じて、DXの実現に向けた取り組みの手順や進める上での注意点について確認していきたいと思います。

DXの取り組み事例(製造業:A社)

まず、紹介する企業の概要と課題について簡単にまとめると、A社は創業20年を迎える、アクリル板等の加工を行っている大阪の企業です。当時抱えていた課題としては、製造現場の生産状況が管理できておらず、仕事を受注しても納期が明確に回答できない(できても時間がかかる)、いつまでに対応して欲しいと納期を要望しても、忙しくて無理だと現場に断られるなど、製造現場主体の生産管理となっており、非効率な現状を改善する必要がありました。

ITを活用して、この問題の切り分けや原因の見える化をするためには、まずは現状の業務フローを作成し、ボトルネックとなる工程の洗い出しや理想の業務フローをどのように実現するのか、といった見直しが必要となります。

図.業務フローの一例
図.業務フローの一例

同社の場合、一番効率的な生産体制を実現するため、最終的には製造現場の生産状況を把握して、営業主体で生産管理を行うことを目標としました。あるべき姿・目標が明確になれば、必要となるデータの整理を進めてから、DXの進め方の3ステップに沿って具体的な施策への落とし込みを進めることができます。

・必要となるデータの整理
営業主体で工程管理を行うためには、顧客の受注内容に合わせた作業工数(標準時間)を把握(数値化)できれば解決できます。同社では毎日の作業を日報(手書き)に記載しており、作業ごとの工数を管理していましたが、これまで一切活用していません。このデータを活用すれば工数を見える化・標準化できる可能性があるわけです。このように必要とするデータを収集する仕組みを整理していきました。

・DXの進め方の3ステップ 1. デジタイゼーション:アナログデータのデジタル化
アナログのままではデータを活用することが難しいことから、まずは日報の電子化を進めるため、業務アプリ構築サービスを活用して日報システムを構築し、過去3年間の日報データを登録しました。システムの詳細については省きますが、受注管理システムも並行して作成し、日報システムと連携させることで、各工程の作業工数を蓄積できる仕組みを構築していきました。
2. デジタライゼーション:ビジネスプロセスのデジタル化
日報システムに登録したデータを基に、各工程の標準工数が把握できるようになってから、同じく業務アプリ構築サービスを活用して工程管理システムを構築しました。営業が受注を確定させた時点で、その受注情報を工程管理システムに登録することにより、無駄のない工程管理が可能となりました。また稼働率も向上したことから、生産性も大きく向上し、そこから得た会社の売上・利益を従業員に還元することで、定着率も改善するなど、様々な副次効果が生まれました。
3. デジタルトランスフォーメーション:新しい価値の創出(競争優位の確立)
アクリルの張り合わせといった難易度の高いアクリル加工の依頼が増加していましたが、手間暇がかかることから、これまで受注を断っていました。
しかし、前述の取組みにより生産性が向上し、作業時間にも余裕ができてきたことから、これを契機に新しい加工の機械を導入して、アクリル加工の幅を広げることで、受注の取りこぼれを防ぐことができました。
このように付加価値の高い加工をはじめ、新しい市場へも顧客を広げることができ、事業の拡大を進めることができました。

DXの取り組み事例(小売業:B社)

次に紹介する企業は、京都でお茶や抹茶を使った加工品の製造販売を行っている、創業55年の小売業B社です。課題としては、一般家庭でのお茶の消費量減少やお中元・お歳暮の需要減少といった影響を受けて、店舗の売上が年々減少しており、打開策として5年ほど前からネット販売に積極的に取り組んでいましたが、ネット販売も競争が激しく、なかなか成果に繋がらないなど、販売戦略を見直す必要がありました。
同社の場合、「実店舗がある」という強みを活かすため、顧客との関係性が比較的浅いネットでの新規顧客を追いかけるのではなく、店舗に来店される既存顧客との関係性を深めることから、新規顧客の開拓に繋げていくことを目標に設定しました。

・必要となるデータの整理
既存顧客との関係性を深めていくために、顧客の必要なタイミングで必要な情報を届けていくことが効果的です。しかし、同社はこれまで顧客情報を管理しておらず、タイミングに合わせたプッシュ型でのアプローチができていないことが課題で、顧客情報の収集とアプローチする仕組みの構築が必要でした。

・DXの進め方の3ステップ 1. デジタイゼーション:アナログデータのデジタル化
プロモーションに活かす顧客管理を行うためには、デジタル化が必要不可欠です。スマホアプリの導入など、すべてをデジタル化して顧客管理を行いたいところでしたが、コストや顧客にアプリをインストールしてもらうなど、導入へのハードルがあることから、顧客の利便性を考慮してアナログとのバランスをどのように取るか検討する必要がありました。同社の場合、汎用性のあるタブレット型のPOSレジシステムを新たに導入し、顧客にはアナログ(紙のバーコードが付与された会員カードを発行)、管理はデジタル化、といった方向でDXのシステム設計を行いました。
2. デジタライゼーション:ビジネスプロセスのデジタル化
店頭で顧客に会員の登録を促し、顧客カルテをシステムに登録、発行されたバーコードを貼ることで紙の会員カードを発行します。会計の際にバーコードを読み込むことで顧客の購入履歴と顧客管理を紐づけ、プロモーションに活かすデータを蓄積していきました。並行してクラウド会計も導入し、会計業務の効率化も同時に実現、さらにネット事業との顧客管理・在庫管理も一元管理することで、販売管理⇒顧客管理⇒売上管理を一元管理し、会社全体での業務の効率化に取り組みました。
3. デジタルトランスフォーメーション:新しい価値の創出(競争優位の確立)
蓄積されたデータを分析・活用することで、顧客のランクや購入履歴、購入タイミングに合わせたDMなど、プッシュ型のアプローチを実施できました。また既存顧客へ向けてお土産や催事利用を促すことで、新規顧客へ商品を届ける仕組みを強化し、お届け先の顧客が新規顧客になった場合には特典やお礼メールを行うなど、丁寧なアプローチに取り組むことでネット事業と店舗の売上をそれぞれ拡大していきました。将来的にはアプリを活用して、完全自動化によるプロモーションの実現に取り組むことを検討しています。

DXの実現に向けた企業の取り組み方

DXを実現していくための方法としては、
① 下流である現場(業務フロー)から現状の課題を明確にしていく方法(製造業の事例)
② 上流である経営戦略の視点から課題解決を明確にしていく方法(小売業の事例)
が挙げられます。
どちらが正解というわけではありませんが、共通して重要なポイントは「競争優位を生むデータ」が何かを明確にして、どのようにそのデータを集計するのか、そのために最適なシステムをどのように構築、現場に反映していくのか、といった手順で進めていくことが必要です。DXツールの導入による部分最適だけでなく、経営戦略の視点からITをどう活用していくのか、全体最適と将来の競争優位を見据えた戦略立案がDXの重要な進め方だと私は考えています。

※図表は中野氏自作による

(2022年8月23日掲載)

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

中野 雅公 氏

中野 雅公 氏

 

中小企業診断士
グラスハパコンサルティング株式会社 代表取締役社長
デジタルとアナログを活用した集客・販売促進の専門家。中野IT活用診断士事務所代表。忙しい事業者様の手間暇をかけずに導入できる仕組み作りで、お客様の集客・リピーター作りを実現するための集客支援、販売促進を専門としている。

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