第58回 新規事業におけるコンセプトのつくり方:実践編|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2024.5.28公開

新規事業におけるコンセプトのつくり方:実践編

前回の記事では、新規事業における独創的なコンセプト(「未知のコンセプト」と呼んだ)の重要性に触れながら、コンセプトの定義を次の式で示しました。

「コンセプトの定義:XなのでYができるZです」
X = 実現させるための「機能」
Y= 新たな「価値」
Z = 提供する「手段」

今回の記事では一歩進んで、未知のコンセプトを生み出す3つのプロセスを具体的に紹介します。

コンセプトのつくり方1:手段を明確にする

ここでいう「手段」とは、フィットネスや習い事、フレンチレストランといった業態などを指しています。しかし新規事業に取り組んでいると、どうしても独自性を強調したくなり、手段自体が抽象度が高く未知なものになってしまうことがよくあります。例えば“コミュニティサービス”、“フェムテックサービス”といったものです。いずれも抽象度が高く、顧客から見ると、手段とは呼べないものになってしまい、理解しにくいコンセプトとなります。

手段を特定するには、まずは顧客の視点で比較対象、つまり競合商品やサービスを特定することから始める必要があります。そもそも自分たちの商品がどのお店(市場)のどの売り場(商品カテゴリ)に置かれるのかが不明瞭な時点で、顧客から手に取ってもらうことは難しいです。そのため、比較対象となる商品やサービスを特定し、それと比較されやすいという観点で、手段を定義します。これにより、理解されやすいコンセプトの源泉となり、非常識な要素を組み込むための土台となります。

これは、新規事業開発のプロセスの中では「参入市場の特定」というプロセスに該当します。手段を検討する中で、自分たちの事業はどこの市場で事業を営んでいくのかについて考えてみましょう。

コンセプトのつくり方2:矛盾をはらむ価値

非常識な要素を価値に組み込むためには、常識を捉え、それを破る必要があります。そのため、まずは破る対象である常識を捉えましょう。ここでいう常識とは、手段が持つ常識のことで、手段の特定は、その手段の常識を明確に捉えるという役割があります。

つまり、先ほどの手段を特定するという工程は、常識を捉えるためにも一役買っていたのです。例えば「高級フレンチ」という手段だった場合、常識は「一等地に豪華な店舗を構え、一流シェフが高級食材を使い高級なフランス料理を振る舞う。そして、コース料理を基本とし、長い間、店内で一流の接客を受けながら楽しんでもらうことで付加価値の高いディナーを提供する」となるかもしれません。

このように手段が明確になると、常識が明確になり、矛盾をはらむ非常識な価値を組み込む土台が整います。高級フレンチを例にすると、矛盾をはらむ価値はどのように創造されていくのでしょうか。これは、アイデアを生み出した段階で感性から生み出されていることが多くありますが、今回は1つのコツとして「転換思考」という思考法を解説します。

これまで常識や当たり前だと思っていたことを捉えて転換して発想する思考法のことを「転換思考」と言います。未知のコンセプトを生み出すための鍵となります。では、どのように常識を転換するかですが、実は直感的に行うことが多いのが実態です。ただし、常識の捉え方にいくつか型をもっておくと転換が容易になります。

型の1つとして、5W2Hで考えてみると考えやすいと思います。5W2Hで常識を転換し、自身がアイデア段階から考えていた本質的な価値と統合することで、常識にとらわれない、手段とは矛盾した価値を定義できるようになります。

「5W2H」いつ、どこで、誰に、何を、なぜ、どのように、いくらで「これまでの常識」特別な日に、一等地で、高所得層の大人、高級フレンチ(赤字)、最高級の料理を堪能したい(赤字)、時間をかけたコース料理を一流の接客で、高価格で「転換された常識」いつもの日常で(赤字)、一般的な飲食街で(赤字)、所得が高くない若者に(赤字)、家庭料理的フレンチを、一般的な料理を食べたい、短い時間にアラカルトで(赤字)、低価格で(赤字)
■高級フレンチという手段に対して実現したい価値(赤字)をコンセプトに採用

このように高級フレンチという手段に対して、これまでの常識から転換され、矛盾をはらんだ価値が抽出されます。そこから個人の感性にもとづき「早くて安く食べられる高級フレンチ」というコンセプトの原型を導き出します。

コンセプトのつくり方3:価値を実現させる機能

矛盾をはらんだ価値と手段が明確になると、コンセプトの原型ができあがります。しかしこれだけでは、夢物語で終わってしまいます。新規事業のアイデアの出しどころは、実は価値を実現させる「機能」にあるのです。コンセプトの中で描いている、市場で非常識と思われる価値、つまり矛盾をはらんだ価値を実現させるには、通常では実現困難です。そのため、何らかのイノベーション要素が必要になります。ここでは、そのコツを2つ解説します。

1つは、フランスの哲学者デカルトの言葉「困難は分割せよ」。一見すると実現不可能だと思える夢物語も、要素を分割することで解決策が見つかります。例えば、「早くて安く食べれる高級フレンチ」だとすると、「高級フレンチ」という要素を分割してみます。すると、「高級」の中でもコンセプトに合わせて、大事にする要素と捨てても良い要素に整理ができ、アイデアを出す論点が絞られてくるのです。
2つ目は、先ほども活用した転換思考です。「早くて安く食べられる」という価値を実現するために、整理した要素のうち捨てる要素に注目します。その要素1つ1つを転換し、価値を実現するためのアイデアを出してみると、発想しやすくなります。

バイアスをブレイクするのがコンセプトの役割

多くの人は合理的であろうとします。これは生きていく上で当たり前のことですが、こうした“常識“は時として「バイアス」にもなり得ます。

前回記事の冒頭で「新規事業の至上命題は、これまでの常識を壊し、社会にインパクトを届けること」だと伝えました。まさに新規事業には、こうした既存のバイアスをブレイクすることが求められています。そしてバイアスをブレイクするための鍵こそ、今回取り上げた未知のコンセプトなのです。

これまでの手段が持つ常識を転換することで、その手段が持つバイアスをブレイクする価値を生み出せます。そしてそれを実現する機能を備えることで、イノベーションが生まれます。コンセプトを考えることはイノベーションそのものなのです。手段と価値の矛盾、そしてそれを実現させるための機能。この組み合わせを創造することが新規事業を生み出す皆さんにとっての至上命題です。この構造を意識してコンセプトを創造し新規事業を生み出していくことで、これまでにない価値を社会に届けられます。

X(機能)なのでY(価値)ができるZ(手段)です 機能→実現を支える、価値・手段→矛盾

未知のコンセプトはオマージュにより創造される

未知のコンセプトといっても、全くのゼロから組み立てられるものではありません。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「これまでに組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって、新たな価値を創造する」ことと定義しています。

つまり、未知のコンセプトもこれまでの要素の新しい組み合わせであり、過去のオマージュにより創造されるのです。ここでいうオマージュとは、元ネタに対して尊敬の念が込められた上で似たような作品を創作することです。

オマージュ元が近ければ近いほど、当然ですがイノベーションからは遠のきます。逆に時間的にも空間的にも現在地から離れたところからオマージュすると、それは現在の常識からみると、非常識な要素を含む「ブレイクザバイアス」になるのです。

また、オマージュ元が普遍的な価値を含んでいることも重要です。人間の普遍的欲求を満たす価値を含んだ過去のオマージュ元を探し、現在と行き来しながら思考することで、未知のコンセプトを生み出す感性が養われます。

ビジネスには教養が必要と言われますが、コンセプトの創造というところに注目するのであれば、自身のアイデアがオマージュしたい元ネタの探索に絞って知識を蓄えていくことをオススメします。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

高岡 泰仁(たかおか やすひと)氏

高岡 泰仁(たかおか やすひと)氏

 

GOB Incubation Partners株式会社 代表取締役社長 CEO

前職では自社の新規事業創出や企業の新規事業開発支援、事業戦略、組織開発等に取り組み、その経験を活かしGOBに入社。2019年からはGOBに参画し、社会価値と経済価値を両立した事業の輩出にむけて、新規事業開発や新規事業戦略、仕組みを含めた組織づくり等に携わる。現在は特に地域の事業創造に探求し、社会がまだ発見していない世界観を描く起業家・中小企業の挑戦に寄り添い活動し、複数企業で取締役として経営にも伴走している

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