人事評価制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの構成で成り立っています。
しかし、「どれから手を付けるかわからない」もしくは「3つの制度が上手く噛み合っていない」と悩まれている方は多いのではないでしょうか。
今回は3つの制度の基礎知識と、実際に各制度をつくる流れの中で押さえておきたいポイントを事例も交えながら解説します。
前回は人事評価制度をつくる目的についてお伝えしました。
今回は実際に制度をつくるための手順について解説します。
流れとしては下記の4ステップです。
(1)自社の基本思想を明確にする
(2)等級制度をつくる
(3)評価制度をつくる
(4)報酬制度をつくる
(1)自社の基本思想を明確にする
人事評価制度と一口に言っても様々な思想があります。
例えば、年功(年齢・勤続)、成果(結果)、能力(職務遂行能力)、職務(仕事)、役割(果たすべき役割)などがあります。
まずは自社の経営ビジョン、社員、社風などを踏まえた上で、「自社は何を重視するのか?」といった基本思想を明確にします。
(2)等級制度をつくる
皆さんにとって一番なじみがなく、イメージしづらいものが等級制度ではないでしょうか。
等級とは、社員の格付けの「ハコ」です。
格付け内容は自社の基本思想によって変わります。
例えば、能力を自社の基本思想とした場合、見習いレベル、基本レベル、自律レベルというように能力を軸として、格付けのハコをつくっていきます。
【等級定義の事例】
●1等級(見習いレベル)
基本的な業務を指示、指導を受けながら遂行し習得する
●2等級(基本レベル)
担当する基本的な業務を主体的に遂行できる
●3等級(自律レベル)
担当業務を判断・工夫を加えて自律的に遂行できる
等級は、上記のようにそれぞれの定義づけをします。
等級の数は、少なすぎると差がない、みんな同じといった状態になります。
逆に多過ぎると定義が曖昧となり、運用も曖昧になります。
等級の総数は会社の規模によっても異なりますが、従業員数が数十名から数百名であれば5~8個くらいが適切でしょう。
また、等級制度は、人の成長を支援する仕組みとしても非常に有効で、会社が社員に求めるものを明示することができます。
そして、等級制度はこの後に登場する評価制度や報酬制度にも関係してきます。
併せて検討したいことが「役職」定義です。
中小企業の実態として、役職を年功序列や給与を上げる理由などで任命していることがよくあります。
例えば、
「彼は40歳になったのだから、そろそろ課長にしよう」
「基本給は上げたくないから手当がつく役職をつけよう」
といった運用です。
ある会社で係長になったばかりのAさんとお話する機会がありました。
(片岡)
「Aさん、係長昇進おめでとうございます。良かったですね。係長になって何か変わりましたか?」
(Aさん)
「ありがとうございます!おかげさまで係長の手当がついて給与が上がりました。」
(片岡)
「それは良かったですね!他にはありますか?」
(Aさん)
「仕事内容も変わりませんし、今までと特に変わりませんよ。」
これでは、何のために昇進してもらったのかわかりません。
役職は会社が期待する「役割」です。
会社がどんな役割を期待しているかを社員に明示して任命すべきです。
そのため、役職にも以下のような定義が必要です。
【役職定義の事例】
●主任の役割
①係長の補佐役としてチームをまとめる
②課内の円滑な業務遂行に対して責任を持つ
③係長が不在の時の補佐役
●係長の役割
①課長の指示のもと、自己及び係(チーム)の任務を遂行し、チームの力を結集し成果を出す
②配属された新入社員の実務的指導育成
③課長が不在時の補佐役
(3)評価制度をつくる
評価制度は自社らしさを最も出せる制度です。
そのため、ここで書籍やインターネット上で拾ってきたような借りものを使っていては上手くいきません。
どの会社でも使えそうな汎用的な評価制度では、会社が社員に望む成果や行動は引き出せないためです。
評価制度をつくるときは、以下3つを軸にして考えます。
①何を(評価内容)
②誰が誰に(評価者と被評価者)
③どうやって(評価の進め方)
①何を(評価内容)
●業績(仕事に直結する項目)
●意欲・情意(仕事に取り組む姿勢・態度)
●能力(仕事を遂行するために必要な能力)
などの項目があります。
業績の評価内容としては、仕事の質、仕事の量、仕事の難易度、改善工夫などがあります。
こちらは全職種共通です。
職種ごとにつくる場合は、営業系だと売上高、売上達成度、利益、回収率、訪問回数、クレーム発生度などが考えられます。
製造系だと、生産数量、生産達成度、原価率、不良率の改善度、コスト削減度などが対象になるでしょう。
意欲・情意は、規律性、責任性、協調性(チームワーク)、積極性(チャレンジ)、コスト意識、経営意識などが挙げられます。
能力は、知識、判断力、企画力、折衝力、指導力、統率力など。
多くの会社で上記3つの要素をベースに作成することが多いですが、私は業績と行動(成果に繋がるプロセス)の2軸で評価項目をつくることをお勧めしています。
その理由は意欲や能力というものは見えづらく曖昧なことが多く、やっているかやっていないのかがハッキリしません。
業績と行動を明記した評価項目の方が納得度の高い評価ができます。
【評価項目事例】
●社内外、上司部下問わず、明るく大きな声で目を見てハッキリと挨拶していたか
●打ち合わせ、会議などの場で意見・提案などを積極的に発言していたか
また、行動は経営理念やビジョンから展開してつくると、更に自社らしい評価項目になります。
②誰が誰に(評価者と被評価者)
正社員の1次評価者は課長、2次評価者は部長、最終評価は役員会といったルールです。
評価者と被評価者を一覧にし、個人名を明記して全社員に配付している会社もあります。
③どうやって(評価の進め方)
●評価は年1回、2回、四半期ごとにするのか?
●評価算定対象期間はどうするのか?
●評価段階は何段階にするのか?
こういったことを検討していきます。
評価段階は、会社によって2段階から10段階まで幅があります。
(4)報酬制度をつくる
報酬とは、月給、賞与、退職金を表します。
●月給
月給の内訳は、基本給と手当です。
基本給と手当は性質の異なるものです。
基本給は社員個人に紐づいているもので、下げることは難しいです。
但し、適正な評価制度があり、適正な運用がなされていれば下げることも可能です。
一方、手当は個人に紐づくものではなく、手当の要件に当てはまれば出すというものです。
例えば、子ども手当であれば、要件の子どもがいれば出しますが、就職等すれば対象外です。
役職手当も役職の役割を果たせば出しますし、果たせなければ役職を外し、出しません。
基本給は、(1)の等級とリンクします。
例えば、1等級は18万~22万円の範囲、2等級は21万円~24万円という形で基本給の範囲を決めていきます。
これで感覚的な給与決めから等級に応じた仕組みの下で決定することができます。
●賞与
賞与支給方法も月給の何か月分という方法だけではなく、等級を活用した支給が可能です。
ポイント制(賞与予算から評価によってポイント決めによって分配)と、支給額制(評価と支給額を固定)がありますが、下記事例には支給額制を記載します。
【事例】
賞与も等級を活用することで、社員の貢献度に応じた支給が可能になります。
●退職金
一般的に基本給に紐づく退職金制度(退職時の基本給に勤続年数や係数をかけるというもの)が大半です。
シンプルで計算しやすいですが、会社は退職金の上昇を恐れて基本給を上げることをためらいます。
そのため、退職金制度にはポイント制をお勧めします。
資格等級にポイントを付与し、このポイントに1ポイント当たりの単価を乗じることにより退職金を算出する制度です。
年功序列ではなく、貢献度に応じた退職金も可能となり、社員のモチベーションアップにも繋がります。