第30回 特許権の基礎知識|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2022.6.21公開

特許権の基礎知識

人間が知的活動をすることで生み出したアイディアや創作物等は、「知的財産権」で財産として護られます。
この「知的財産権」には、さまざまな種類がありますが、「特許権」もそのうちの一つで、「発明」を保護するためのものです。
今回は、「特許権」ではどのように「発明」が保護されるか、そして「発明」とはどのようなものかをお伝えします。

1.「特許権」でどのように「発明」が保護されるか

◎特許権の内容
「特許権」とは、一定期間(出願日から原則20年)、特許権を有する者のみ独占的に発明を実施出来る権利です。
他人が特許発明を実施することを止めさせる(差し止める)ことができ、また、他人が特許発明を実施することで生じた損賠の賠償を受けることができます。

社会からのニーズがある発明であれば、市場を独占することで、特許権を有する者(以下、「特許権者」と記載します)は、大きな利益を得ることができます。
また、そのような発明であれば、他者も発明の実施をしたいでしょうので、その他者に対して実施を許してあげることで、実施料(ライセンス料)を貰うことができ、大きな利益を得ることが出来るでしょう。
一方、社会からのニーズがない発明であれば、独占的に発明を実施できても、特許製品等が売れないため、利益を得ることが出来ず、実施したい他者もいないでしょう。

このように、特許権は、一定期間の間、独占的に発明を実施出来るようにすることで、「発明」の価値に見合った利益を特許権者が得ることが出来るようになっています。

◎特許権を取得する方法
知的財産権の一種として、特許庁に出願手続きを行い、審査を通過したもののみ権利が与えられる「産業財産権」というものがあります。
「特許権」はこの産業財産権の一つです。

つまり、どんな優れた発明でも、特許庁に出願しなければ、「特許権」を取得することが出来ません。出願には、14,000円の特許庁費用がかかります(2022/6/3現在)。
出願のための書類には、発明を説明するための文章が記載された書面が含まれます。

発明を説明するための文章作成は大変なものですので、出願を弁理士に依頼することが一般的です。
従って、弁理士の費用がかかります。

その後、出願してから3年以内に、別途審査請求料を支払って、審査請求を行ったもののみ、実体審査がされます。
審査請求料は、最低でも142,000円はかかりますが、中小企業であれば、最大2/3減額される減免制度があります(2022/6/3現在)。
(審査請求料)
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/hyou.html

(減免制度)
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmen20190401/index.html

実体審査では、特許の対象となる発明かどうか、発明が新しいか(新規性があるか)、既存の発明から簡単に作れないものか(進歩性があるか)等が審査され、審査を通過したもののみ、特許査定がなされます。
特許査定がされたタイミングで、特許料を支払うことで特許権が付与されます。
なお、実体審査なく、権利が発生する制度として実用新案権があります。
実用新案権も産業財産権です。

審査を通過しない場合には、拒絶理由通知がなされます。
この通知に対して、反論したり出願書面の補正を行う等の応答をすることで、審査を通過する場合があります。
応答しても審査を通過しない場合や応答しない場合には、拒絶査定がされます。
拒絶査定になっても、審判を請求して、特許権の取得をめざすことが出来ます。
審判でもダメな場合には、裁判を行うことも出来ます。
審判を請求することは一般的ですが、裁判まで行うことになるのは、大変稀なことです。

公報発行

2.「発明」とは

「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」が発明であると法律で決められています。
従って、「自然法則そのもの」、「単なる発見であって創作でないもの」「自然法則に反するもの」「自然法則を利用していないもの」「技術的思想でないもの」等が、発明ではないと特許庁の審査基準に記載されています。

よくご相談を頂くのは「ビジネスモデル特許は、特許権を取得できますか?」ということです。
ビジネスモデル特許は、人が決めたルールですので、「自然法則を利用していないもの」になり、発明ではありません。
もっとも、ビジネスモデルにコンピュータを利用する場合、ソフトウェア発明として特許権の対象になり得ます。

3.特許権取得・特許製品の実施での注意点

◎特許権取得での注意点
(1)特許権の取得のためには、特許庁の実体審査を通過しなければならず、この実体審査には、「発明」の新規性や進歩性が要求されることは、上述しました。
出願人自身の行為(特許製品の販売や、ウェブサイトや雑誌等の刊行物での発表等)でも「発明」の新規性がなくなってしまうことにご注意ください。
新規性がなくなった場合でも、一年以内であれば、「新規性喪失の例外」という手続きを行うことで、新規性が喪失しなかったことになりますが、新規性喪失の例外を主張すべき行為の記載漏れ等の危険がありますので、原則、出願するまでは、「発明」を秘密にした方がよいです。

また、特許出願をした場合、①出願してから1年6月経過後、②特許権が付与されたときに、特許庁から発明の内容を開示する公報が発行されます(上記図に△で示すタイミングで発行されます)。
この公報の発行は、「新規性喪失の例外」の対象にもなりません。
過去に自身が特許出願した発明の改良発明を特許出願する場合には、公報が発行される前に出願しなければ、公報に開示された発明の内容に基づいて、新規性があるか、進歩性があるかが判断されてしまいます。

(2)権利範囲ですが、出願書類のうちの特許請求の範囲の文言で決まります。
従って、権利範囲が狭くなるような文言を記載しないように気を付けてください。
例えば、特許請求の範囲に「鉛筆」と記載すれば、原則、権利範囲は「鉛筆」になります。
従って、「鉛筆」でなくても、筆記用具であればよい場合等は、「鉛筆」ではなく「筆記用具」と記載する等、特許請求の範囲の文言を十分に吟味して出願してください。

◎特許製品の実施での注意点
特許権を取得すれば、他者の特許権の侵害にならないと誤解されている方がいらっしゃいます。
しかしながら、他者の特許発明を改良した改良発明についても特許権が付与されます。
他者の特許発明の「利用」と言われます。
このような場合には、特許権を有していても、特許発明の実施(製造・販売等)をすると、他者の特許権の侵害になる場合があります。
従って、実施前に、他者の特許権を侵害していないか調査する必要があります。
特許庁から、他者の特許を調査することが出来る検索ツールが無料で提供されています。
(特許庁の無料検索ツール)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0100

※図表は竹口氏自作による。
(2022年6月21日掲載)

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

竹口 美穂(たけぐち みほ)氏

竹口 美穂(たけぐち みほ)氏

 

弁理士、基本情報処理技術者、一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務)、付記登録、ビジネス著作権検定上級
みなほ特許事務所
大阪産業創造館経営相談室 経営サポーター

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