前回のコラムでは、『ビジネスモデルキャンバス』を構成している各要素の内容を掘り下げてご紹介しました。
今回は、事例をもとに『ビジネスモデルキャンバス』の考え方や作り方のポイントを解説します。
『ビジネスモデルキャンバス』の作り方
(図1 コンビニエンスストアのビジネスモデルキャンバス)
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今回は、私たちの生活において身近な存在である、コンビニエンスストア(以下、「コンビニ」)を事例に取り上げます。
コンビニは、日本に誕生してから約50年が過ぎました。
全国の各所に点在し、使ったことがない人はおそらくいないのではないかと思われるほど、メジャーな存在です。
英語を直訳すると「便利なお店」という意味があり、顧客の便利さの要求に応えています。
それでは、ビジネスモデルを見ていきましょう。
まずは、『価値提案(VP)』です。
ここには、顧客が選ぶ理由を記載します。
前述したとおり、「いつでも(24時間営業・年中無休が基本)」、「どこでも(買いたい時にすぐそばにある)」が本来の選ばれる理由です。
多くのスーパーマーケットやドラッグストアの価値である安さや品ぞろえの良さではなく、利便性の良さが顧客にとっての価値となります。
また、昨今ではコンビニ各社で「オリジナル商品」の開発に力を入れています。
ここでしか買えないものを顧客が買いに来ることから、価値に加えています。
では、『顧客セグメント(CS)』には、どんな層が入るでしょうか。
「いつでも」・「どこでも」を選択理由にあげる人とは、どんな人でしょうか。
買いたい時に、すぐ買えることを望む人という点では、おおよそ「忙しい人(たとえば、学生・社会人など)」が思い浮かびます。
もちろん、立地や企業などによって多少の違いがありますので、その特徴をとらえた他の表現でもかまいません。
『チャネル(CH)』は、顧客が製品やサービスを認知する場・購入する場です。
コンビニでは、おもに「店舗」となります。
SNSが認知手段となっている昨今では、SNSも要素に加えられます。
しかし、たくさんの要素を書き込みすぎると本筋が見えなくなることがあります。
要素は必要最低限に抑えることがポイントです。
『顧客との関係(CR)』は、顧客とどのようにつながるかを「深さ」と「長さ」で表します。
コンビニは、利便性の良さが提案価値です。
そのため、基本的には「売り切り型のセルフサービス」という浅い関係となります。
そして、「ポイント会員制」による囲い込みを行い、長期的な関係の構築をめざしています。
ここまでが、ビジネスモデルキャンバスの右半分のエリアになります。
顧客にどう価値を届けるかの領域、すなわちマーケティング領域です。
この活動の成果が、ビジネスモデルキャンバスの右下の部分、『収益の流れ(RS)』として表されます。
顧客に価値を提供した結果、得られる対価のことで、「商品代金」がこの要素にあたります。
コンビニの場合、基本的には定価販売で売上を得ています。
スーパーマーケットやドラッグストアのように、特売品を前面に打ち出すことは行っていません。
このような特徴(たとえば、定価販売)も記述しておくと、ビジネスモデルがより鮮明になります。
一方、価値を生み出す領域、すなわち、エンジニアリング領域は、ビジネスモデルキャンバスの左半分のエリアで示されます。
その中の『リソース(KR)』は、価値を生み出すための必要不可欠な経営資源を表します。
この領域の心臓部分といっても過言ではありません。
コンビニの「いつでも」・「どこでも」を実現する必要要素として、「POSシステム」や「小さな敷地面積」があげられます。
充実したPOSシステムが、商品管理・分析のツールとして売れ筋商品の把握や欠品を防いでいること。
小さな敷地面積だから出店がしやすく、顧客が利用しやすい場所に店舗数を拡大しやすいこと。
この2点が、いつでもどこでも必要な商品を購入できるという価値を生み出しています。
『主要活動(KA)』は、価値を生み出し提供するために行う必要不可欠な活動を表します。
コンビニの場合は、小さな敷地面積であるために、在庫を最小限に抑える必要があります。
日販品なら「1日3回配送」がシステム化されています。
また、店舗も小さいため「小人数で運営」することになり、こちらはコストダウンに寄与します。
しかしながら、これらの活動を自社だけで運営するのは結構大変です。
そこで必要となるのが、外部組織、いわゆる『パートナー(KP)』です。
協力関係を構築することで、必要なリソースの確保、活動の最適化、リスクの低減などを実現できます。
コンビニでは、「商社」が主なパートナーとしてあげられます。
商社は商品を調達するうえで、欠かせない役割を担っています。
これらの価値を生み出す領域では、ビジネスを運営するためのコストが発生します。
ビジネスモデルキャンバスの左下の部分、『コスト構造(CS)』には、そのコストの項目を記述します。
コンビニの例として、「商品原価」・「物流コスト」・「店舗の在庫コスト」をあげています。
「商品原価」は売上に伴う大きなコストですので、記述例としては理解しやすいと思います。
「物流コスト」は多頻度配送のため他業態よりもコスト高になっている点、「店舗の在庫コスト」は小さな敷地面積であるため他業態よりも低く抑えられる点が特徴的なので、選択し記述しています。
このように、単に項目を記述するだけでなく、活動と連動させたコストの特徴もあわせて考えることが、コストダウンの検討やビジネスモデルの強化にもつながります。
コンビニの業態を例にあげ解説しましたが、あくまでも一例です。
ぜひ、みなさんが見聞きした内容を中心に作成してみてください。
入る項目が多少違っていても問題ではありません。
持っている情報や見るポイント、同じ業態・分野でも戦略によって、各ブロックに入る項目は変わってきます。
例えば、同じコンビニでも、セブン-イレブンとローソンでは違うビジネスモデルになります。
最近では無人型店舗なども出店され、同一企業内で複数のビジネスモデルを持つようになっています。
いろいろな事例に数多く当たることは、ビジネスモデルの理解を深め、新たな切り口を見つけるトレーニングにもなります。
他事例を研究し、自社に取り入れたり、新規事業のアイデアに加えることにより、イノベーションを起こすきっかけにしていただきたいと思います。
ビジネスモデルキャンバス作成のポイント
作成のポイントとして大切なことの1つは、各要素がうまくつながり、ストーリー性を持っていることが確認できるかです。
“ストーリーを組み立てる”と、よく言いますよね。
ストーリーは因果関係で成り立ち、基本構造があります(起承転結や三幕構成、ヒーローズジャーニーなど)。
だからこそ、理解しやすく、納得性が高まります。
ビジネスモデルはビジネスの構造設計です。
因果関係で成り立ち、論理的に組み立てられていることが重要です。
自身のビジネスモデルキャンバスを他者に説明した時、すんなりと理解されたかどうかで判断できます。
つじつまが合わない、一貫性がない場合は見直す必要があります。
また、2つ目は、構成要素がうまく連動し、“自己強化ループ”ができているかということです。
ビジネスを行えば行うほど好循環が働いて、強いビジネスモデルとなっているかどうかをチェックします。
Amazonの創業者、ジェフ・ベゾス氏が書いたと言われている図2が良い例です。
(図2 Amazonジェフ・ベゾス氏による「善の循環」)
出典:Amazon HP
https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazon
自社での顧客体験が素晴らしいと客数が増え、客数が増えると自社に商品を供給する企業が増え、その結果品揃えが増える。
品揃えが増えると顧客はさらに素晴らしい体験ができ…と好循環が続く。
さらにそこに低コストの構造を築き、低価格で顧客に商品を提供できればさらにその好循環は強まることになる。
というものです。
自社のビジネスモデルが、うまく好循環のサイクルを描けているかどうかを、ビジネスモデルキャンバスを使って検証してみてください。
最後に
ビジネスモデルキャンバスはだれでも自由に使える(著作権フリーの)フレームワークです。
外部環境が大きく変化し、ビジネスを大きく変換させないといけない時や、次のステージにどう進んで行くかを検討する時は、ビジネスモデルをぜひ見直してください。
その際、ビジネスモデルキャンバスが役立ちます。
ビジネスモデルは1つの要素が変われば、ルービックキューブの面を合わせるように、すべての要素を見直し変えなければなりません。
そのためには、因果関係がわかりやすい、俯瞰できる図が役立ちます。
箇条書きでビジネス要素・項目を羅列しただけでは、ビジネス間のつながりが見えず、構造の変革ポイントを見つけ出すことは容易くありません。
ビジネスモデルキャンバスなら、きっとチャンスを手にできるはずです。
第1回目のコラムの冒頭で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で経済が大打撃を受けていると書きました
今回に関わらず、企業が存続する限り、これからも大きな脅威が押し寄せる可能性はあります。
その際、どう対応し、どうビジネス変革を行っていくかを、経営者は考え続けることになります。
今回のビジネスモデルの考え方がみなさまの参考になり、課題解決の糸口になれば幸いです。