第50回 魅力的な人材と組織をつくる心理的資本について②|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

中小企業の経営者・起業家の皆様を支援する機関。大阪産業創造館(サンソウカン)

マネジメントNavi

経営に役立つ情報をお伝えします!

経営事典

2023.11.28公開

魅力的な人材と組織をつくる心理的資本について②

前回は、やりとげる自信や自律的に目標達成を促す“心のエンジン”である「心理的資本」の概念や考え方についてご紹介いたしました。
心理的資本が開発されることで、個人がイキイキと自信を深めるだけでなく、業績の向上も期待できます。今回は、心理的資本を開発するガイディングという手法について解説いたします。

1.心理的資本を開発する「ガイディング」とは

ガイディングとは対象者に対して、心理的資本の構成要素で開発可能なスキルでもあるHERO(ホープ、エフィカシー、レジリエンス、オプティミズム)を高める投げかけをおこない、行動を促すことです。対象者の心理的資本を高めることは、心の柔軟性を生み、さらにはやりとげる自信と自発的な目標を達成する行動にも繋がります。またガイディングは、コミュニケーション手法として、コーチングやカウンセリング、また人材の育成、1on1などの対話の場面にも活かすことができます。

ガイディングの視点を少しご紹介します。

ホープの開発は、まず「こうありたい」(Will)を考えてみること、そしてそれを達成するための道筋(Way)を複数描いてみることが重要です。そのためには良い目標の設定とそのふりかえりが鍵になります。
良い目標の設定とは「具体的」「測定可能」「達成可能であるが挑戦的」な目標のことです。目標に対して行動し、そこでの学びや気づきを基に柔軟に道のりを修正しながら進めることで、柔軟な発想力をはじめ、目標に向かう熱意を高めることができます。

エフィカシーの開発においては、下記の4つが効果的だといわれています。
1.「やれた、できた」という【達成体験】
2.他者からの刺激や学びである【代理体験】
3.ポジティブなフィードバックである【社会的説得】
4.適度で心地よい緊張や心身の健康を意味する【心理的幸福】

エフィカシーを高めるガイディングでは、達成可能な目標を掲げ、日々、ポジティブなふりかえりを促し、ポジティブなフィードバックをしながら、次への達成体験を生むように支援していくことが重要です。エフィカシーは代理体験による効果も高いので、他の人からの学びを共有する支援も効果があります。

レジリエンスとオプティミズムは、対象者の経験やネガティブな意識、体験を整理し、次への行動を促すリフレーミングを行うことでスキルを高めることができます。

2.心理的資本をマネジメントに活かす

用語も多く、なにやら難しそうでとっつきにくい印象もある「心理的資本」ですが、実は日々のマネジメントサイクルに落とし込むことができます。

2-1熱意ある社員を育てる

熱意ある社員は経営者にとって、これほど心強いものはありません。熱意ある社員はどのように育成すればいいのでしょうか。その効果的な方法の一つでもある、心理的資本を高める介入法=ガイディングを活かした対話について、例を交えて解説していきます。

例えば、「やる気を失い、自律的な行動がなかなかできない人」に対しては、その人のホープを引き出す対話を切り口にするといいでしょう。
「あなたが貢献したいことはなんですか?」
「それに向けて、小さなステップとなる目標を考え、一歩ずつでも行動していきましょう」といった背中を押してあげる対話は効果的です。

「自分に自信がない人」にはエフィカシーを高める対話をしましょう。
まずは相手のことをしっかり認めて、良いところは褒め、課題のある点は“褒めたあと”にきちんとフィードバックするのも効果があります。双方の信頼関係づくりに注力すると良いでしょう。

「失敗を恐れている人」にはレジリエンスやオプティミズムのアプローチが効果的です。
レジリエンスを高めるには、
「あなたの強み(資産)はなんでしょうか」
「その強みをどう活かすとリスクを乗り越えられるのでしょうか」
と自分の強みをしっかり自覚させ、乗り越える策をしっかりイメージさせるキッカケを与えると良いでしょう。

オプティミズムのアプローチでは「過去への寛大、現在への感謝、将来への機会探索」のため、不安の囚われからの切り替えをはかります。
「不安や問題があっても、まずは自分がコントロールできる範囲に集中しましょう」
と気付きを与えると効果があります。

もちろん、全社員への働きかけができると理想的ですが、まずは周りにも影響を与える中核となる人材から実施していきましょう。

2-2良い職場環境をつくる

心理的資本のエフィカシーの高め方は、良い職場環境をつくる際にも参考になります。自社のマネジメントの仕方がエフィカシー(自信と信頼)を高めるやり方になっているか、逆に下げるような仕方になっていないか、図1を参照に確認してください。

(図1)

(出典:「心理的資本をマネジメントに活かす」中央経済社 開本浩矢・橋本豊輝 著)

よくある課題として、
・目標設定はしているが、ふりかえりとフィードバックができていない
・目標は上から決められたものと捉えてしまい自律的に挑戦できない
・社内共有が「通達」になっていて、高め合えていない
・社内メンバー同士のコミュニケーションが乏しい
・指摘のフィードバックばかりで、ポジティブなフィードバックができていない
といった声をよく聞きます。
エフィカシーを高め、良い職場環境をつくるためには、何に取り組むべきなのかを考えてみてはいかがでしょうか。ヒントは図1にあります。

3.中小企業で活用するには

心理的資本という、一見、取っ付きにくい概念ですが、まずは「感謝と信頼」をつくる取り組みに注力してみてはどうでしょうか。
オプティミズムでは「過去への寛大」「現在への感謝」「将来への機会探索」が重要な概念です。まずは経営者自身が、自らのHEROを高めていただき、そのHEROを社内に伝播していくことが重要だと考えています。
そしてその上で、従業員を信頼し、ポジティブなフィードバックを行い、自律的な行動を評価していくことこそが、良い人材を育成でき、かつ素晴らしい組織づくりに繋がると思います。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

石見 一女(いわみ かずめ)氏

石見 一女(いわみ かずめ)氏

 

株式会社Be&Do 代表取締役
1959年生まれ。武庫川女子大学文学部卒業。1985年に25歳でセールスプロモーション系人材派遣会社を創立。1994年に組織・人材活性化コンサルティング会社を共同経営で設立し、組織活性化コンサルティングを行う。1998年から「人と組織の活性化研究会(APO研究会)」を設立。2014年法人化に伴い代表理事に就任。2011年に株式会社Be&Doを設立。現場力を高めるWebアプリケーション「Habi*do(ハビドゥ)」を開発・販売。

◆本ページの内容は、表記の公開日または改訂日時点の情報に基づき掲載しています。
関連法や制度の改正・終了、リンク先ページの公開状況、閲覧タイミング等により、
情報が最新でない場合があります。
情報の閲覧、利用時には、十分にご留意をお願いいたします。

◆本ページに記載している内容について、商用利用は禁止しています。
また、許可なく他の媒体等に転載・流用することも禁止いたします。
フォーマットは、お客様の企業内のみにてご使用ください。