第66回 これからの中小企業に必要な人事戦略とは?|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

中小企業の経営者・起業家の皆様を支援する機関。大阪産業創造館(サンソウカン)

マネジメントNavi

経営に役立つ情報をお伝えします!

経営事典

2025.03.11公開

これからの中小企業に必要な人事戦略とは?

採用難や定着率低下など、多くの中小企業が直面する人材課題。
今回は、採用・育成・定着の基本的な考え方から、具体的な施策まで、中小企業の実務に役立つポイントを整理してご説明します。

日本の中小企業は経済を支える重要な存在ですが、近年、「ヒト」の問題(労働力不足や人材の流動化)に直面しています。特に、人材の採用難や社員の定着率の低下といった課題は中小企業の成長を妨げる要因となっています。
本稿では、これからの中小企業に必要な人事戦略について、課題の整理から具体的な施策までを解説します。

1. 中小企業が直面する人事課題

中小企業における「ヒト」の課題は多岐にわたりますが、特に以下の点が大きな問題として挙げられます。

(1) 人材不足と採用難
少子高齢化の影響で労働人口が減少しており、多くの中小企業が人材確保に苦戦しています。特に、中小企業に比べて資金力のある大企業との人材獲得競争が激化し、優秀な人材を獲得することが難しくなっています。

(2) 定着率の低下
せっかく採用しても社員が短期間で退職してしまうケースが増えています。
特に若年層は、一社終身ではなく、より良い環境を求めて転職する傾向が強く、離職率の高さが企業にとって大きな問題となっています。採用戦略が不明確であるために起こる採用時のミスマッチが原因となっていることも少なくありません。

(3) 人事制度の未整備
中小企業では、大企業のような体系的な人事制度が整っていないことが多く、評価やキャリアパス、賃金の決定方法が不透明になりがちです。これにより、社員のモチベーションが低下し、成長機会の不足が離職につながることもあります。
また、中小企業では、人事制度導入に関する情報が不足している、導入にあたって適当な人材が不足していることも課題として挙げられることが多いです。

2. これからの人事戦略の全体像

以上を踏まえ、中小企業が持続的に成長するためには、戦略的な人事施策を講じる必要があります。具体的には以下の3つのポイントを軸に人事戦略を考えることが重要です。

(1) 採用戦略
競合他社との差別化を図り、自社の魅力を高め、適切な人材を適切な方法で採用するための施策が求められます。具体的には自社の魅力を分析するとともに、自社が求める人材像を明確にし、そのうえで採用媒体を選考し、面接を実施します。面接を実施する人の間で採用に関する認識を共有しておくと効果的です。

(2) 育成・研修
社員のスキル向上を図り、企業の成長とともに個人のキャリアも発展させる環境を整えることが重要です。今はお金を掛けなくてもできる研修や助成金を活用してできる研修もありますので、まずは情報を収集し、効果的な育成・教育プログラムを立てましょう。

(3) 定着・エンゲージメント
社員が安心して長く働き続けられる職場環境を構築し、企業と社員がともに成長できる関係を築く必要があります。そのために自社がめざすべき方向性等を社員に発信し、当該内容に共感し、そこに価値や使命感を感じてもらう必要があります。
「発信なくしてES(Employee Satisfaction・社員満足)なし」、そんな時代が到来していると感じます。

3. 採用戦略のポイント

採用戦略を成功させるためには、次の観点からのアプローチが効果的です。

(1) 企業の魅力を発信する
求職者に対して自社の魅力を積極的に発信することが重要です。
恥ずかしがらず、これでもかというくらい魅力を発信しましょう。方法としては、SNSや採用サイトを活用し、経営者の想いや社風、働く社員の声を紹介することが有効です。

(2) 採用チャネルの多様化
ハローワークや求人サイトだけでなく、リファラル採用(社員紹介)やインターンシップを活用することで、より適切な人材と出会う機会を増やせます。
また、一言で求人サイトといっても多種多様な手法が出てきていますので、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社に合った採用チャネルを活用するようにしましょう。

(3) 採用プロセスの工夫
選考フローを見直し、求職者の負担を軽減するとともに、スピーディーな対応を行うことが重要です。例えば、オンライン面接を取り入れることで、遠方の求職者ともスムーズに面接ができる他、履歴書や職務経歴書等の選考書類を紙の郵送ではなく、データで受領する方法を採ることでスピード感をもって面接フェーズへ移行することができます。

4. 社員育成と定着の重要性

採用した人材を定着させ、長期的に活躍できる環境を作ることが、企業の成長につながります。そのためには採用時のミスマッチを極力減らすことも勿論のことながら、入社後のキャリアビジョンを意識したフォローアップが重要となります。

(1) 教育・研修の充実
社員が成長できる環境を提供することで、モチベーションの向上につながります。例えば、OJT(On-the-Job Training)や社内勉強会、外部セミナーの受講支援などが考えられます。
会社の教育に対する考えを発信することは非常に重要です。

(2) 評価制度の透明化
明確な評価制度を設けることで、社員が自身の成長を実感しやすくなります。成果(業績)とプロセス(行動)評価をバランスよく取り入れることが重要です。時代と自社に適合した制度を導入しましょう。
また、制度を導入するだけでなく、その後の運用が回るよう制度の目的を評価者、被評価者に理解してもらいましょう。

(3) 働きやすい環境の整備
リモートワークの導入やフレックスタイム制の活用、福利厚生の充実など、社員の働きやすさを考慮した制度を整えることが定着率向上につながります。隣の芝は青く見えるものですが、自信をもって自社の職場環境を自慢できる、そんな職場環境をめざしましょう。

5. まとめ

これからの中小企業にとって、人事戦略の強化は避けて通れない課題です。採用戦略を工夫し、社員の育成・定着を図ることで、企業の持続的な成長が実現できます。

特に、中小企業ならではの柔軟性、スピード感を活かし、社員一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢が求められます。
戦略的な人事施策を取り入れ、競争力のある組織を構築していくことが重要です。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

床田 知志(とこだ さとし)氏

床田 知志(とこだ さとし)氏

 

社会保険労務士法人和 代表社員

大学卒業後、2007年にNTT西日本に就職。翌2008年に社会保険労務士試験合格。
入社3年目に念願の本社人事部に異動し、評価制度、賃金制度、退職金制度の設計、労働組合対応に携わる。
2014年5月に現職である、社会保険労務士法人 和に転職。
前職での経験を武器に幾多もの業種にて人事制度の設計に取り組む。
加えて、セミナー講師や人事コンサルティング業務を拡大し、入社当時と比べて、“人員4倍、売上8倍以上”を実現し、2019年1月に代表社員就任(親族外承継)。
2022年には東京千代田区に支店を開設し、翌年には都内IT企業の社外監査役に就任、2024年4月に中小企業診断士登録を行い、「社労士×診断士」のシナジーを活かし、中小企業の経営力向上に関するお手伝いをしている。

◆本ページの内容は、表記の公開日または改訂日時点の情報に基づき掲載しています。
関連法や制度の改正・終了、リンク先ページの公開状況、閲覧タイミング等により、
情報が最新でない場合があります。
情報の閲覧、利用時には、十分にご留意をお願いいたします。

◆本ページに記載している内容について、商用利用は禁止しています。
また、許可なく他の媒体等に転載・流用することも禁止いたします。
フォーマットは、お客様の企業内のみにてご使用ください。