第22回 「中期経営計画」の基礎知識③~中期経営計画策定の手法~|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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2021.06.08公開

「中期経営計画」の基礎知識③~中期経営計画策定の手法~

前回のコラムでは、「内部環境分析の手法」についてお伝えしました。
これから、「中期経営計画策定の手法」についてパート順にご紹介します。


中期経営計画の全体像を前々回のコラムでお伝えしました(図表1)。

図表1:中期経営計画の全体像

図表1:中期経営計画の全体像

策定手順は経営理念から順に策定していきますが、その前にやるべきことがあります。
それは全従業員に対して中期経営計画を策定するという宣言と、プロジェクトチームの発足です。

まず、全従業員に宣言することで、経営陣が本気で会社を変えようとしていることを理解してもらいます。
また、禁煙宣言と同じで、周りに宣言することで、途中で投げ出すことを防止でき、必ずやり遂げるという覚悟が決まります。

次に行うのはプロジェクトチームの発足です。
メンバーは経営陣や中間管理職を中心に構成し、他にも斬新な発想を得るために若手社員の起用、次期幹部を育てるために有望な人材の起用など、目的に応じて参加メンバーを検討してください。

以下、中期経営計画の各パートについて説明を行います。
今回は5つのパートのうち、3つを解説していきます。

経営理念

経営理念とは「自社の存在意義」、「経営に対する考え方」、「行動規範」などを指します。
「わが社に経営理念はない」という会社でも、会社を設立した時は、社会に対して何らかの貢献をするために設立したはずですし(自社の存在意義)、大きな意思決定する際には何らかの判断基準に従って決断しているはずです(経営に対する考え方)。
また、従業員にとってほしい行動や考え方もあると思います(行動規範)。

会社の規模が小さいうちは、役員と従業員で話し合って会社の方向性を決めるので、経営理念を共有するのも難しくはありませんが、規模が大きくなると、経営者の想いを従業員一人ひとりに伝えづらくなります。

そのため、経営者の想いを経営理念として目に見えるかたちにして、社内で共有すべきなのです。

経営理念がしっかりと根付いている組織は、一人ひとりが経営者と同じ考え方で行動するため、細かいルール・規則で縛る必要がなくなり、自発的に行動してくれるようになります。

ただし、経営者が理念に反する行動をとり続けると、経営理念は形骸化してしまいます。
例えば、普段は品質重視や顧客第一主義などを唱えていても、いざ問題が発生した時に、リコール隠しや顧客へ虚偽の報告を指示するようなケースです。

そのようなことが続けば、従業員は形骸化した経営理念ではなく、経営者の言動・行いこそが「経営に対する考え方」であると判断して、同じような行動をとるようになるでしょう。
従業員は経営者の言動をよく見ていますので、経営者自らが模範を示すように行動しなければなりません。

経営ビジョン

経営ビジョンとは、市場や競合といった外部環境の変化を踏まえ、経営理念で掲げる自社の存在意義を果たし、持続的成長を続けるために必要な「自社のあるべき姿」です。
3~5年後を想定してビジョンを作るケースが多いです。

ビジョンを設定する観点として以下の3つで検討してください。

◇事業の将来像
誰に(who)、どんな商品・サービスを(what)、どのように提供するか(how)を決めます。
外部環境は常に変化しているので、未来永劫、同じ商売のやり方でうまくいくはずがありません。
環境変化に応じて、今後、注力していくべき顧客、商品・サービスの構成、販売活動など、ビジネスモデルの再構築を図ります。

◇市場からの対外的評価
市場や社会からどのように評価をされたいか、競合と比較してどのポジションに位置したいかを決めます。
現状、お客様は自社に対して、どのようなイメージを持っているでしょうか?
品質が高い、納期が早いなど、ポジティブなイメージや、電話対応が悪い、不良品が多いなど、ネガティブなイメージかもしれません。
あるいは、まったく印象に残っていないかもしれません。
顧客が商品・サービスを探すときに、「☐☐の商品と言えば納期が早い〇〇社だ!」、と指名されることが理想です。
そのために、自社の確立したいイメージや競合との相対的なポジションを明確にしましょう。

◇組織体制
上記2点の実現に必要な組織・人のあり方を決めます。
戦略を実行して、会社を運営するのは「人」です。
効率的にコミュニケーションや意思決定ができる組織形態、モチベーションを高める評価制度、従業員の能力を高める教育体制などの組織体制や、従業員にとってほしい仕事への態度、考え方など、組織と人におけるあるべき姿を描きます。

どんなに優れた戦略を策定・実行しても、目的地(ビジョン)が間違えていると、理想とするゴールにたどりつけません。
そのため、ビジョンの設定は重要なパートになります。


経営戦略

ビジョンという目的地が決まれば、現状とビジョンの差を埋めるための戦略を策定します。
経営戦略は会社の方向性を決めるキモとなる部分であるため、時間をかけて慎重に検討しましょう。
ではどのようにして、経営戦略を考えればよいでしょうか。

ここではSWOT分析という手法をご案内します。
前回と前々回のコラムで外部・内部環境の分析についてご説明しました。
SWOT分析では、その分析結果を図表2のように、ビジョン達成に活かせる自社の強み、克服すべき弱み(内部環境)と、ビジョン達成に活かせる機会と脅威の環境変化(外部環境)に分けるフレームワークになります。

図表2:SWOT分析

図表2:SWOT分析

次に、SWOT分析で整理した内容を基に、戦略代替案(経営戦略の候補となる複数の案)を作成します。
そのための手法がクロスSWOT分析です。
クロスSWOT分析とは、SWOT分析で整理した内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を、図表3のように外側に配置して、それぞれの内容がクロスする4象限において、戦略代替案を検討することを言います(図表3)。

図表3:クロスSWOT分析

図表3:クロスSWOT分析

【機会×強み】 積極戦略
自社のビジョン達成に対する機会に自社の強みをぶつける戦略です。
すでにある強みを活かすことができ、短期間で成果がでやすい象限であるため、ここの戦略に最も注力すべきです。

【機会×弱み】 改善戦略
弱みを補填・強化することで、機会に対応する戦略です。
弱みの補填には時間がかかることが多いため、長期的な視点で取り組む必要があります。

【脅威×強み】 差別化戦略
迫りくる脅威に対して、自社の強みを活用して、苦境を乗り越える戦略です。
減少傾向にある市場において、競合と徹底的な差別化を図ることで、生き残りをめざします。

【脅威×弱み】 防衛撤退戦略
迫りくる脅威に対して、弱みを補填しながら対応する戦略です。
対応に時間がかかり、効果も出にくいため、撤退も含めて検討しなくてはなりません。

クロスSWOT分析では多くの戦略代替案が必要です。
選択肢が少ないと、従来の戦略と代り映えがなくなる可能性があります。
多くの選択肢から選んだほうが、効果や実現可能性の高い戦略を選択できます。
また、戦略を実行して、効果がなかった場合は、他の代替案を選択することで、迅速な軌道修正が可能となります。

図表4でクロスSWOT分析の事例をご紹介します。

図表4:クロスSWOT分析の事例

図表4:クロスSWOT分析の事例

10個や20個のアイデアはすらすらと出てきますが、それ以上は従来の常識や固定概念から抜け出さないとアイデアが出てきません。
そのため、プロジェクトメンバー全員でブレーンストーミングを行い、少なくとも40個以上のアイデアを出しましょう。
アイデアを限界まで出し切ることで、従来なかった発想が生まれます。

すべての戦略代替案を実行するのは人、お金、時間などリソースが足りなくなるため、どの戦略を実行するか絞り込みをする必要があります。
戦略を選択する基準を設定して、その基準をクリアした戦略案を実行します。

本テーマの最終回となる次回は、「経営課題・経営目標」、「行動計画・損益計画・資金計画」について解説します。

※図表:1、図表:2、図表:3、図表:4は谷口自作による。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

谷口 睦(たにぐち むつみ)氏

谷口 睦(たにぐち むつみ)氏

中小企業診断士
大阪産業創造館 スタッフコンサルタント
専門商社や製造業など複数業種において営業から生産管理などの業務に従事し、2017 年4 月に中小企業診断士登録。
2018年3月より、大阪産業創造館 経営相談室にて、スタッフコンサルタントとして数多くの経営者・起業希望者の相談に対応している。
製造業におけるQCDの改善、ならびに5S 導入支援を得意分野とし、これまで小売業での販売促進や金属加工業での財務分析、ITベンチャーでの組織戦略立案などの支援実績もある。

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