竹口 美穂(たけぐち みほ)氏
弁理士、基本情報処理技術者、一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務)、付記登録、ビジネス著作権検定上級
みなほ特許事務所
大阪産業創造館経営相談室 経営サポーター
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経営事典
ホームページやSNS上において著作物を無断使用することにより、他社の権利を侵害したり、逆に侵害されたりするケースは多く見られます。
今回解説する「著作権」は、これまでお話しした「特許権」や「商標権」と異なり、審査などの手続きが無いため、一層気を付けておきたい知的財産権の一つです。
今一度「著作権」の基本知識や著作権侵害のポイントを押さえて、ぜひリスクヘッジへと繋げましょう。
「著作権」は、知的財産権の一種です。
知的財産権には、特許権・実用新案権・意匠権・商標権といった「産業財産権」もあります。
「産業財産権」は、特許庁に出願手続きを行い、審査を通過したもののみ付与されますが、「著作権」は、この様な手続きなく著作物を創っただけで自動的に発生します。
今回は、著作権とはどの様なものかをより詳細にお伝えするとともに、著作権侵害となってしまう場合はどの様な場合かをお伝えいたします。
◎著作権の内容
「著作権」とは、一定期間(保護期間)、著作物の利用を独占できる権利です。
他者が著作物の利用をした場合、その利用を止めさせたり(差止めたり)、その利用によって発生した損害の賠償を受けたりすること等ができます。
また、他者にライセンスをしてライセンス料の支払いを受けることができます。
◎誰が著作権者になるか
原始的には、著作物を作った者(著作者)が著作権者になります。
著作権は、譲渡することができ、譲渡した場合には、著作者以外の者が著作権者になります。
会社等の従業者が創作した著作物については、一定の条件を満たした場合、この従業者ではなく会社等が著作者となり、著作権を有します。
この一定の条件とは、①法人の発意に基づくこと、②従業者が職務上創作したこと、③法人等の著作名義で公表されること、④契約等で別段の定めがないこと(「著作権が従業者に帰属する」等と定められていないこと)です。
なお、プログラムの著作物については、③は要求されません。
プログラムの場合には、公表を予定していないものがあるからです。
著作権侵害となるかどうかは、下記のフローチャートに沿って判断できます。
Q1で著作物であり、Q2で著作権の支分権の行為であり(著作物を利用しており)、Q3で権利制限に該当せず、Q4で権利の保護期間である場合に、著作権侵害になります。
このQ1~Q4を一つずつ見ていきましょう。
◎Q1「著作物か?」
対象が著作物でなければ、利用しても著作権侵害にはなりません。
「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であると著作権法で定められています。
「表現」ですので、当然、頭の中で考えただけのものは著作物にはならず、「アイディア」は著作物にはなりません。
従って、例えば、絵の画風や、小説等の設定、料理本のレシピ等は著作物ではありません。
「思想又は感情」を表現するとは、人間が考えたり、感じたりすることを表現するという意味です。
人間が、ということですので、サルが撮った写真、機械で自動撮影した写真、人工知能が自律的に生成したものは、著作物にはなりません。
また、単なる事実も著作物ではありません。
「創作的」にとあるので、何らかの形でその人なりの表現がなされ、個性が表れていることが必要です。
誰が表現しても同じようなものになってしまう場合には創作的ではありません。
また、短い文は、創作的であると認められませんので、タイトル、見出し等は、著作物になる可能性が低いです。
キャッチコピー等もある程度の長さのあるものでなければ、著作物にはなりません。
「著作物」であるために求められる創作性のレベルは、対象によって差があります。
実用品のための産業デザイン(応用美術)、建築物、文字が含まれたもの(例えば、ロゴ)等は創作性のハードルが高い傾向にあります。
写真等は創作性のレベルが低い傾向にあります。
一方で著作物であっても、下記のような場合には広く国民に利用されるべきであるため、著作権の保護対象にはなりません。
◎Q2「著作権の支分権の行為か?」
著作権侵害となる利用行為は、著作権法に限定的に定められています。
定められた利用行為を下記に記載します。
この定められた各利用行為についての権利は、それぞれ支分権といわれます。
複製という利用行為をした場合、著作権における複製権という支分権を侵害することになります。
複製権とは、著作物を有形的に再製する(複製する)ことを独占する権利ですが、他者の著作物を真似(模倣)して複製していなければ複製権侵害にはなりません。
すなわち、偶々他者の著作物と同一・類似する場合には、複製権侵害にはなりません。
一つの行為によって複数の支分権を侵害してしまう場合があります。
例えば、他者の著作物(例えば写真等)をブログ等のサイトに掲載した場合、写真の複製をするとともに、公衆送信(公衆に対して送信)したとして、複製権と公衆送信権の両方を侵害します。
「限定的に定められている」とは、定められた行為だけが、著作権侵害となり、定められていない行為は、著作権侵害にはならないということです。
例えば、海賊版の小説や漫画を「読む」行為(使用する行為)については、上記の定められた行為に該当しないため。著作権侵害とはなりません。
なお、上記の行為の他に、「みなし侵害」となる行為も著作権法に限定的に定められています。
◎Q3「権利制限に該当するか?」
支分権に関する利用行為を著作権者に無断で行っても著作権侵害のならない場合が、例外的に著作権法に定められています。
これも限定的に定められており、定められていない場合には、著作権侵害になってしまいます。
この例外的な場合が、「権利制限」と言われます。
例えば、複製であっても、個人的または家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には(私的使用のための複製の場合には)、「権利制限」に該当するため、著作権侵害にはなりません。
その他、様々な権利制限が定められています。
◎Q4「権利の保護期間か?」
保護期間が過ぎた著作物を利用しても著作権侵害にはなりません。
著作権の保護期間は、映画の著作物だと、原則、著作物の公表後70年です。
映画以外の著作物だと、個人の著作物の場合には、原則著作者の死後70年であり、法人等の名義の著作物は、著作物の公表後70年です。
特許の保護期間(原則、出願日から20年)と比較すれば、著作権の保護期間は大変長いです。
(1)著作物の制作を外注(制作委託)した場合ですが、資金を出し、制作内容の要望や仕様を伝えての委託であっても、制作する者(受託者)が著作者になり、著作権を有します。
従って、外注する場合には、著作権の譲渡の契約を結ぶ等をした方がよいことにご注意下さい。
(2)著作権は著作物を創っただけで取得出来る権利ですが、その分、著作権がいつ発生したかを証明することが難しいです。
著作権の発生を証明するための証拠を準備することが大切です。
この方法としては、例えば、著作物について公証役場で確定日付を受ける、文化庁の登録を受ける等があります。
(3)著作権の他に、著作者人格権、著作隣接権、肖像権、パブリシティ等の他の権利もありますので、これらの権利を侵害しないことにも注意しなければなりません。
著作者人格権は、著作者の著作物に対する思い入れを保護するための権利で、公表権、氏名表示権、同一性保持権があります。
著作隣接権、肖像権、パブリシティは、下記のような権利です。
他者の著作物である写真に関して、利用の許可を得た場合でも、その写真に写っている人物に無断で利用(例えばブログにアップする等)した場合に、肖像権侵害となる場合があります。
※文中の各図は竹口氏作成による。
(2022年7月26日掲載)
弁理士、基本情報処理技術者、一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務)、付記登録、ビジネス著作権検定上級
みなほ特許事務所
大阪産業創造館経営相談室 経営サポーター
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