新規事業において、事業に独自性をもたらすコンセプトは不可欠です。しかし、多くの事業開発の現場では、独自性の高いコンセプトが生まれずにいます。
というのも、新規事業は立ち上げの過程でどうしても角が取れて丸くなり、現実解に落ち着いてしまうことがよくあります。それは価値を具現化し、市場に適応させていく過程では避けがたいことです。
だからこそ、事業に最後まで独自性やスケールするほどの大きな構想を持たせておくためには、初期の段階から、いかに社会にインパクトを与えるコンセプトを創造し、育てていけるかが鍵を握ります。
今回は、新規事業を生み出す上で、最初の難所であり、最も重要な「コンセプトのつくり方」を全2回で解説します。
新規事業で創造したい「未知のコンセプト」
新規事業の至上命題は、これまでの常識を壊し、社会にインパクトを届けることです。そのため新規事業のコンセプトは、常識を持った人たちに「こんなの見たことがない」「意味がわからない」と言わしめるほどのものでなければなりません。このような、社会で未だ見たことがない価値が含まれるコンセプトを、ここでは「未知のコンセプト」と呼ぶことにします。
新規事業は「常識を壊し、社会にインパクトを届ける」ことが役割だと言いましたが、事業が直接的に社会を変えるわけではありません。社会が変わるまでにはプロセスがあります。
①未知のコンセプトを生む
②コンセプトを込めた商品・サービスを生む
③顧客がそれを購入し利用する
④顧客の行動が変わる
⑤顧客の人生にインパクトを与える
⑥そのような顧客が増え、社会にインパクトを与える
つまり、社会を変えるのは「事業」ではなく「顧客」なのです。顧客の行動を変え、人生に影響を与えるほどの未知のコンセプトが込められた商品やサービスを届けられるか、それこそが新規事業における挑戦です。そのためにまずは「未知のコンセプト」を創造し、社会を変えるほどの世界観を描いて、スケールの大きな新規事業の創造につなげていきましょう。
コンセプトを生み出すのは個人の感性
多くの新規事業は個人の感性を起点に生まれてきました。例えば「airbnb」は民家に宿泊できる民泊サービスとして世界にインパクトを与えた事業です。これは、創業者のブライアン・チェスキー氏のある体験がきっかけでした。
ブライアン氏は、自宅の近くで国際会議が行われた際に、宿泊先を確保できなかった旅行者に対して、自身の部屋に宿泊させました。その際、宿泊ゲストと仲良くなり、つながることとができた彼は、その体験を世界に広げたいと思い、airbnbを創業します。そして、現在では、「民泊」の代名詞とも言えるサービスに成長しました。決して市場のニーズに応えただけではなく、自身の感性に触れた体験がきっかけとなっています。
新規事業を開発する際にはよく「市場のニーズをしっかり分析しアイデアを生み出しなさい」と言われますが、市場ニーズを客観的に分析してもコンセプトを生み出すことはできません。その理由は2つあります。
1つ目は、すでにある情報から着想したアイデアは、誰でも思いつくためです。客観的な分析からでは、独自性の高いコンセプトを生むことは難しく、結果的に厳しい競争にさらされることになります。
2つ目は、そもそも人は保守的であることです。人には生存本能が備わっているため「常に安全な場所にいたい」と保守的な考え方をする傾向があります。市場のニーズ把握をするための手段として代表的なニュースや統計データといった情報は、市場にあふれる保守的な人々の声が集められた結果です。そうした保守的な声から、まだ見ぬ価値を捉えることは難しいのです。
このように、コンセプトの源泉は客観性とは対極にある、主観的な部分、個人の感性にあります。最近では、アート思考なども注目を集めていますが、まずは、個人の感性に目を向け、社会がまだ見ぬ価値に注目することがコンセプトを生み出す出発点になるのではないでしょうか。
コンセプトの創造を阻むものは人の保守性
しかし、社会がまだ見たことのないほどの未知のコンセプトは、生まれにくいのが現状です。その背景には、先ほどもありました「人が保守的である」、つまり常識の中で過ごすことの方が心地良いと考える性質にあります。そのため、仮に常識を外れたコンセプトを創造できたとしても、実現可能性が低く、常識も知らない奴だと思われそうで恥ずかしい、怖いといった心理に陥り、打ち出していくことができないのです。
未知のコンセプトは創造的という側面もありますが、一方で常識の破壊と捉えることもできます。そのため、多くの常識の中で過ごすことが心地よく、冒険を嫌う人にとって破壊的な未知のコンセプトを生み出すということは、自身の安全を脅かす恐ろしいことなのです。
未知のコンセプトは 非常識 × イノベーション
では、未知のコンセプトとはどのようなものなのでしょうか。ここでは未知のコンセプトを紐解き、誰もがとり扱える1つの構文として解説していきたいと思います。
コンセプトとは、「XなのでYができるZです」という構造で表現することができ、各要素は次の通り整理することができます。
X = 実現させるための「機能」
Y = 新たな「価値」
Z = 提供する「手段」
つまりコンセプトの定義とは、「独自の機能を用いて実現する新たな価値を備えた手段」のことです。しかし、単にこの構文でコンセプトを作成しても未知なるものにはなりません。各要素の関係に「未知のコンセプト」を創造するヒントがあります。
1:価値と手段の関係には非常識な要素が含まれている
未知のコンセプトを創造するからといって、新規事業で提供する手段(Z)は未知ではいけません。提供する手段は、顧客に手に取ってもらうために必要な要素なので、既視感のあるものにする必要があります。
では、未知にする要素は何かというと、その手段では通常提供されない新たな価値(Y)を組み合わせているかどうかです。非常識な要素が価値(Y)と手段(Z)の関係に組み込まれている時、はじめてコンセプトは社会が見たことのないものになります。
2:機能と価値・手段の関係にこそイノベーションが含まれている
Xは「YができるZです」を実現させるための機能となりますが、先ほど、価値(Y)と手段(Z)の関係には非常識な要素が含まれていると話しました。そのため機能(X)には、価値(Y)・手段(Z)を具現化させる具体的な方法が求められるのです。それは技術やビジネスモデルから由来するものなどさまざまな形になりえます。「今までにない価値や手段を今までにない方法(機能)で届ける」ということを具現化して初めてイノベーションを生み出す「未知のコンセプト」になるのです。
このように「未知のコンセプト」は、自身の感性を起点として非常識な価値を考え、それにイノベーティブなアイデアを組み合わせていくことにより成立します。
次回は、未知のコンセプトを生み出す3つのプロセスについて解説していきますので、ぜひ実務の中で活用してみてください。